「最終戦、今まで勝利がなかったので、このまま終わるわけにもいかない。選手たちというより、私の意地があったのかもしれない」と神戸・西野朗監督はこの試合を振り返る。
横浜FM・樋口靖洋監督は「率直な感想は勝ちたかった。そして勝たなければいけなかった」と悔しさをにじませた。
神戸と横浜FMとのヤマザキナビスコカップ・予選リーグ最終節は、すでに敗退が決まったチーム同士の対戦とは思えない、熱を帯びた一戦となった。

この一戦、両チームのスターティングメンバーは、リーグ戦での出場機会に恵まれていない選手たちが中心だった。
西野監督は「消化試合と言われれば、そういうゲームだったと思いますが、我々にとっては積み上げていかないといけない大事なゲーム。今日は出場時間を制限されていた選手をベースに編成した」と言う。トップに都倉賢を置き、右サイドハーフに朴康造、サイドバックは近藤岳登と林佳祐、センターバックは河本裕之と高木和道、そしてGKは嘉味田隼。スタメンでもおかしくない選手たちだが、今季は故障などもあって出場機会に恵まれていない選手たちがスタメンに名を連ねた。特に、昨季は不動のセンターバックとして活躍した河本裕之に関しては、西野監督が「彼はセンターバックのポジションを失いかけていた時だったので…」と話すほど久々の起用。朴康造も野沢拓也の加入により今季はベンチで過ごす時間が増えていた時期だった。

そんな２人がこの試合で意地を見せた。前半の９分。朴の蹴ったCKは相手GKから逃げるようにカーブし、それを河本が後方に下がりながらの難しいヘディングで合わせて神戸が先制した。後半の87分には、同じようなシチュエーションで朴のCKを河本が頭で合わせて決勝点を挙げる。試合後、記者たちに囲まれた河本は「たまたま巡ってきたチャンス。しっかり結果を出せるようにとは考えていた。個人的には今までで一番厳しい状況。でも、やりがいは感じる」と振り返っていた。ケガでキャンプから出遅れた河本は、伊野波雅彦、高木和道、イ・グァンソンらセンターバックの選手が加入したこともあって今季のリーグ戦は未だに出場がない。この試合を機に、再び輝きを取り戻すことを願う。
神戸はこの試合、森岡亮太がキックフェイントで相手DF３人を引っ掛けてから決めた41分のゴールを含め、３−２で勝利。このゴールの起点がケガから復帰したGK嘉味田隼の鋭いロングフィードだったことを考えても、それぞれの選手がチャンスを生かしたゲームだったと言えるだろう。

一方の横浜FMはどうか。樋口監督は「選手は90分間ファイトした。それは評価したい」とコメントを残しているが、前半の立ち上がりは早い時間帯に先制点を許したこともあって、神戸に主導権を握られた。攻撃でも神戸のオフサイドトラップに何度も引っかかり、なかなか最終ラインを崩せない。だが、25分過ぎからMF齋藤学が再三に渡って相手DFの裏への抜け出すと、徐々に流れは横浜FMへ。そして37分に最後尾でボールをカットした谷口博之が前線の小野裕二へロングフィードし、小野がそのボールを右足アウトサイドで絶妙にコントロール。相手DF３人を前に細かいフェイクを入れながら冷静に逆サイドへ決めた。この小野のゴールで横浜FMはゲームを振り出しに戻す。
２−１で迎えた後半の80分には、なかなか出場機会を勝ち取れていなかったMF金井貢史が冷静にGKの動きを見て豪快なミドルを叩き込む。アディショナルタイムにも決定的なシーンを作り、センターバックの熊谷アンドリューや二種登録の喜田拓也ら若い選手が多かった中で、神戸を最後まで苦しめたと言える。ただ、試合後に小野はあえて厳しいコメントを残している。「今日はいつも試合に出ていない人が試合に出た。でも、本当にみんなチャンスだと思って試合に臨んでいたのかなと（疑問に）感じた。いつもみんなと試合や練習をしているから、もっともっとみんなはできるとオレは思っている」。

スコア３−２。見応えのあったゲームの勝敗を分けたポイントがあるとすれば、選手一人一人がどれだけこのゲームをチャンスだと思って戦えたかどうか。神戸の林が「リーグで２連勝していたので、負けたらいい流れを止めてしまう。メンバーが代わっても絶対に勝ちたいと思って戦っていた」と、やや険しい表情で話していたのが印象深かった。

以上

2012.06.28 Reported by 白井邦彦