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ルヴァン 準々決勝 第1戦
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【J2:第20節 甲府 vs 富山】レポート:城福浩監督の確信がリスクに勝って掴んだ勝点3で甲府は6位浮上。主導権を取るいい時間帯も作った富山だが甲府の爆発力に沈む(12.06.18)

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久々の大勝利。試合後、ゴール裏やバックスタンドの最前列に上半身を乗り出して片手を出したファン・サポーターとタッチしながらスタンドを周る選手。子供たちがヒーローとタッチすることで勝利を共有して満足する姿を見て嬉しかった。そして、記者席では女子アナとハイタッチしてもっと嬉しかった。ハグをしても怒られなかったかもしれない…。とにかく皆がご機嫌。閉塞感や社会不安を忘れた。山梨中銀スタジアム嬉しさ大爆発のいい夜になった。

試合前の選手紹介では元甲府が多い富山だけに選手紹介でも大西容平らに甲府のファンやサポーターは拍手で気持ちを伝えた。こういう温かさは山梨中銀スタジアムのストロングポイント。でも、新造船ジョーフク丸には元甲府だとか前甲府なんてことは関係ないし、昔話ができる選手も少なくなった。それに、過去の甲府と戦っているのではなく目の前の富山と戦っている。甲府のキックオフで始まった前半、15秒でペナルティエリアに侵入してダヴィがシュートを打つ。これはミートしなかったが、ダヴィの挨拶はなかなか強烈。攻守において足で稼ぐ富山は裏を狙ってきたが、甲府の3ラインはコンパクトだったのでこの狙いはすぐにはチャンスに繋がらなかった。

10分くらい経つとゲームが落ち着いてきて、甲府は主導権を取っているが決定機の手前で、富山は主導権を取られながらも失点の可能性の低い安定した守備で、「攻めあぐね感」を甲府に押し付けていた。また、富山の守備は前から積極的にプレッシャーを掛けるから、ショートカウンターで一発という怖さも感じさせた。しかし、やりきることの難しさが露呈する。18分にピカピカのA契約選手・佐々木翔のクロスがダヴィに合って甲府が先制。富山のディフェンスラインは、オフサイドラインを上げるときにマークを確認していたものの、佐々木が蹴った瞬間に選手がオフサイドと判断して足を止めてしまった。それまでは忠実に守っていたことでも、この1回の見逃しが失点に繋がってしまう。しかし、その後は富山の前からのプレスがハマり、甲府は2点目が遠くなったまま前半を終えた。

甲府が1点リードした状態だからなのか、後半も記者席の後ろにあるファミリー席の淑女の皆さんも今節は愚痴将軍になることなく淑女のままだった。が、後半は富山が主導権を持ってボールを動かすシーンが増え、ファミリー席もそわそわしてくる。甲府の足が止まり気味でもあったように感じた。この時間帯に富山の木村勝太が同点ゴールを決めた。横浜FMユース出身で、甲府でプロのキャリアをスタートさせた選手なので気になっていた選手だったが、「(津田)琢磨さんを背負う形だったので(ソ)ヨンドクに落とそうかと思ったけれど、(トラップしてから)ターンしてみると余裕があったので打った」というミドルシュートが決まって同点。甲府は少し嫌な予感が頭に浮かびそうになったが、スタジアムDJは同点ゴールを忘れさせるように元気な声で、ピンバに替わってJFAアカデミー出身の三幸秀稔が入ることを伝えた。その4分後には先発を外れた高崎寛之が投入と城福浩監督はチャレンジのカードを切る。「(三幸は)トレーニングでやれている選手。確信を持たないとピッチには立たせられない。実績のある選手のほうがリスクは少ないが、自分がリスクを取らないとこのチームはリスクを背負ったチャレンジングなサッカーが出来ないと思った」と、確信とリスクの要素がある決断を下した。

この決断は確信が勝つ。三幸はよかった。上手い上手いとは思っていたがすぐにゲームにフィットしたし、攻守において勘所というかポジショニングや判断がいい。それが67分の津田のゴールに繋がった。ニアにボールを受けに入った三幸に先制点のアシストをした佐々木翔がパスを入れ、最初はシュートを打とうと思っていたが津田がファーから入ってくるのが見えたのでGKを越えて置きに行くような柔らかいパスを入れた。これに津田が飛び込んでアメリカの大統領がジョージ・W・ブッシュだった頃以来7年ぶりのゴール。このゴールで勢いがついた。3分後には相手のミスパスを三幸がワンタッチでダヴィに合わせ、ダヴィが左サイドの高崎に出すと、悩める王子は「何も考えずに身体が反応した」という迫力のあるワンタッチシュートを決めた。そしてスタジアムの感情が爆発。78分には荻晃太のゴールキックに競りに行った高崎の頭を越えたボールを追いかけ、そのまま左足でワンタッチシュート。心情的には荻のアシストになる4点目が決まってスタジアムは嬉しさ連続爆発。

「ホームで初ゴールだったので嬉しいというよりもホッとしました。いろいろな人から『力が入り過ぎじゃないか』、『もう少し楽にやれば』など話をしてもらいましたが、(僕が)いいときは何も考えずに感覚でやっていることが多かった。ずっとFWでシュートを打ってきたから身体が反応した」と、悩める王子は悩むこと止めて活路を開いた。できれば考えても身体が反応するようになって欲しいが、80分に柏が絶好のセンタリングを高崎に入れたときは、「あのときは縦に行くかパスか考えて迷ってしまった。考えなければよかった。あそこはシュートだった。こういうところがいけないんですね(笑)」とハットトリックのチャンスを逃した場面は考えてしまったことを暴露。前にスペースがあるときの高崎の凄さをこの先も見たいが、ミユキという恋人の存在無しには身体で反応するシュートの増産は難しいかもしれない。高崎が変わるか、ミユキとのホットラインでダヴィ越えを果たすかのどちらかだ。

高崎がヒーローインタビューを受けている映像がアウェイゴール裏の大型ビジョンで流れているとき、富山サポーターは歌い続けていた。富山の選手とスタッフはスタンドの前でサポーターの歌を顔を上げてずっと聴いていた。対照的な光景だったが、富山の選手に諦めの感情はない。悔しい気持ちでいっぱいだろうが、どうすれば自分たちが強くなれるのかという道が見えている。何かを身につければ何かを忘れて、もう一度身につけるという、もどかしいことの繰り返しかもしれないが、安間貴義監督を信じて進む道が遠回りのようで一番近道だと思う。関東の試合に飛行機ではなくバスで行き、アウェイに7人のサブメンバーを連れて行けないことが少なくないクラブの状況では粘り強く一歩ずつ進んで行くしかない。「今は鋭い頭より、粘り強い頭を持ってやる」と、置かれた立場でベスト尽くせる稀有のアイデアマン指導者を正当に評価して欲しい。甲府では2年間しか監督をできなかったが、噛んでも噛んでもこの指導者の味は薄くならないと思う。一番近くにいる選手はそう感じているはず。だからこそ勝ちたいという思いがあり、勝てないときの悔しさで自分を責める。

08年、09年の甲府も置かれた状況は違うものの、安間監督のもとで似たような感情を味わったこともあった。ハーフナーマイクが加入した10年も安間監督でやりたいと思っていた人は少なくない。今は違う船に乗っているが、ピッチを離れればみんなアミーゴ。ジョーフク丸はイチガンとなってプロビンチアの星を目指して進む。そして、ライバル安間富山がどう進化していくのかにも関心を持ち続けるし、アウェイの対戦では甲州イナゴ軍団が勝点3と富山湾の幸を堪能して富山を儲けさせる。「援護射撃するよ」なんて甲府の選手と冗談を言ってバスに乗り込んだ安間監督。リターンマッチも楽しみ。リーグ戦の折り返しを前に、甲府は安定感と強さを同時に発揮出来そうな流れに入ったが、アラートに戦い質の高い競争を求めることは変らない。さぁ、第2段ロケットに点火する時がきた。でも、1段目には誰も残さない。みんなで2段目に乗り移ろう。

以上

2012.06.18 Reported by 松尾潤
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