試合開始早々、湘南はハン　グギョンと三原向平が挟み込んでボールを奪い、大野和成が大きくサイドチェンジを図る。左サイドで仕掛けた高山薫はセットプレーを介して最終的にフィニッシュまで至った。かたや岡山もDFの後藤圭太が右サイド深くに進出してクロスを狙うなど攻めに出る。互いの主導権争いは序盤から激しく、とくに岡山は3バックが精力的に相手のクサビを潰しにかかっていた。「いい位置を取りながら付いたり付かなかったりしてきて、裏もケアしていた」とは、中村祐也の岡山DFに対する印象だ。10分が過ぎる頃にはその岡山が右サイドから攻め立てている。

ゲームの流れを俯瞰したとき、湘南にとってひとつ大きかったのは、序盤の岡山のチャンスを凌いだ好守だろう。GK阿部伸行は果敢に飛び出し、また金民均のヘディングシュートには横っ跳びで対処した。湘南に得点機が訪れたのはそれから間もなくのことだ。左サイドに抜け出した永木亮太が菊池大介のリターンを受けてクロスを入れる。そして素早くニアに走り込んだ高山薫がヘッドを合わせてねじ込んだ。「ニアに思い切って突っ込んだら亮太からいいボールがきたので触るだけだった。亮太のナイスボールでした」と、2戦連続弾の高山曰く。クサビに対して強く圧力をかけられていたそれまでを思えば、DFを背負いながら1タッチで永木へと繋げた菊池のプレーも効いた。

同じフォーメーションの激突に局面はそれぞれ激しい。とくに高山と三原の両サイドハーフは高い位置をとり、1対1の攻防とあわせて優位に立っていた。これを成し得たのには、湘南が標榜する組織のコンパクトがあろう。長いボールを蹴られても組織が弛むことなく連動した点は、個々もまた弛まずタスクを遂行したことに等しい。あわせてピッチ上で施した修正もあった。坂本紘司は明かしている。「どのポジションもマッチアップしていたが、相手のFWがサイドに流れ、両サイドハーフの裏を使われたりもしていたので、すぐに対応してポジショニングを修正した。ピッチのなかで素早く修正できたことが今日の勝因かなと思う」。相手の攻撃を感じ取って対処したその後は、湘南が支配を強めている。

1−0で迎えた後半立ち上がり、湘南が早々に攻め込めば岡山はゴール前で体を張り、逆に岡山がフィニッシュを狙えば湘南も阿部を中心に阻む。互いに次の1点を目指すなかで、スコアを動かしたのは湘南だった。敵陣で中村がカットし、すかさず永木が持ちこむ。このショートカウンターは、相手ボールでも湘南がイニシアチブを握っていたことの反映と言えるかもしれない。そして永木から再び受けた中村がGKの位置を瞬時に見極め流し込む。「狙って浮かせました」そう振り返る中村のホーム連続弾で湘南がリードを広げた。

さらに湘南は古橋達弥が入って以降、その後ピッチに加わった山口貴弘や馬場賢治を含めて攻勢を強める。一方の岡山も桑田慎一朗を投入して打開を図った。3連戦の締め括りとなるゲームである。時間の経過とともに消耗戦の様相が色濃くなっていくなかで、しかしリードしている湘南は、3バックの安定した対応を背景に、あくまで攻撃的だった。スコアはそのまま動かず、笛が鳴るや膝に手をつく両選手の姿が、過酷な連戦とミラーゲームの厳しさを伝えていた。

「ゲームの入り方は非常によくいくつかのチャンスをつくることもできたが、うちは決められず、湘南は逃さずに決めることができた。全力を尽くして最後まで戦ったが、上位に食らいついていくためにはもっと伸ばさなければいけない色々なものを見ることができた」岡山にとっては出場停止や怪我が重なったこともあり厳しい戦いとなったが、影山雅永監督は選手たちをねぎらい、次のホーム甲府戦に目を向けた。

一方、湘南の曹貴裁監督も、「自分の判断でチャレンジし、90分足を止めずに湘南スタイルを貫いてくれた」と、バックアップメンバーを含めて選手たちを讃えた。そして、こうも言い添えている。「戦術を豊かにするのは選手たちの判断。自分で判断しようと思わないかぎり、どんなシステムだろうと戦術が豊かになることはないと思っている」。ゲームを感じ、施した修正を含め、判断の質の向上がピッチに映る。着実な歩みを見る湘南は、前半戦の締め括りとなる次節、勝点で並ぶ2位の千葉に挑む。

以上

2012.06.18 Reported by 隈元大吾