2度、3度と、ため息がスタジアムを覆う。前半終了間際のビッグチャンスに津田知宏が至近距離からフィニッシュをふかすと、後半には宮崎光平が、ドウグラスが、掴んだ決定機をモノにし切れない。ファーストタッチの乱れやシュートタイミングの甘さなどによって絶好の得点機会を逃してしまい、そうした個々の技術的な部分についてはさらなる磨き上げが必要と言わざるを得ないだろう。
しかし、それ以外の部分に目をやると、今節の四国ダービーにおける徳島の戦いはほぼ文句なしのものであった。組織的な守備、局面での激しさ、攻撃の際のイメージ共有、そして何よりライバルとのこの一戦を何としても制するという強い意欲を選手たちは存分に見せていたと言えよう。だからこそ、チームは3-0という快勝スコアで愛媛を降し、開幕直後以来の連勝も飾ることが出来たのである。

ゲーム序盤こそ早いタッチでボールを動かす愛媛のポゼッションに主導権を握られかけた徳島。また16分にはロングフィードを愛媛の得点源である有田光希に拾われ、ヒヤリとする場面も迎えてしまう。だが、チームはそうした状況をしっかり我慢し、創り出した最初のチャンスでピッチ上の流れを変える。20分、右サイド寄りの位置で一列落ちてボールを預かったドウグラスが前を向くと、中央の津田が絶妙のタイミングで愛媛の最終ライン裏へ抜け出してパスを受け、GKもかわす冷静さで先制点をもぎ取ったのだ。
さらに徳島はその11分後、深まってきた攻撃のイメージ共有を見事なほどに発揮して畳み掛けるように2点目も奪ってみせる。ドウグラスが頭ですらしたボールを津田が足元に収めて左側へ入ってきた衛藤裕へ繋ぎ、その衛藤のダイレクトパスを中央スペースへ走り込んだ宮崎がお手本のようなランニングボレーでネットを揺らしたのだが、その一連の攻めは絡んだ全員が次の予測を的確にしていたから表現できた形。今季目指している攻撃の理想型であったと言っても過言ではないだろう。

そしてこの2つのリードによりチームは守備のリズムも高めていく。ここ数試合と同じように最前線からの連動した追い込みとコース遮断により愛媛の効果的なポゼッションをきっちりと消していった。またそうした組織としての守りだけでなく、徳島の選手たちはひとりひとりが大きな集中と執念をもって勝負所で体を張り続ける。前半の終盤から後半の立ち上がりには愛媛が反撃の勢いを強めてきたが、ペナルティエリア内で花井聖もが身を挺した勇敢なシュートブロックを見せ、「あそこで失点しているとゲームも危なかった」と指揮官も振り返っていた時間帯をチームは粘り強く凌ぎ切ったのである。
するとそのような守備の頑張りは再びの攻撃活性へ繋がることに。冒頭の述べた通り決定力は足りなかったがカウンターから宮崎やドウグラスが愛媛ゴールに迫るシーンを作ると、その勢いに乗って迎えた75分、ついに衛藤が那須川将大の折り返しを左足で合わせ勝利を決定付ける3点目を記録した。

こうして気持ちのこもった充実の内容を攻守両面で披露した徳島。チームは組織としての成長を改めて強く感じさせるパフォーマンスで今季の四国ダービー第一戦を制したと言えるであろう。だが、この特別な戦いに勝ったからと言ってここで満足していることなどできないはず。「次が大事です」という衛藤の言葉通り、その成長を次節の山形戦（6/24）にも持ち込まなければ。加えて選手たちは、それまでに決定力の改善という課題にも必死の姿勢で取り組む必要があろう。必ずその部分は今後紙一重の勝負において重要なファクターになるのだから。それも含め徳島はまだまだ自らの前進を追求しなくてはならない。
さて、対して敗れた愛媛に関してだが、「情熱や感情を込めてチャレンジすることが出来ませんでした」というバルバリッチ監督の言葉が全てのように思われる。そうした強いメンタルが最も不可欠な一戦でそれを欠けば、向き合わなければならない結果はやはり厳しいものとなってしまう。とは言え、前節・京都戦の素晴らしい内容が物語っているように、こちらもチームのベースが進歩してきていることは明らか。それだけに全員がこの敗戦をしっかりと反省し、深い教訓として活かせれば、次の相手が今節リーグ首位に立った東京Vであろうと十分に勝機を見いだせるに違いない。確かに突き付けられたこのダービーマッチでの完敗はショックだろうが、選手たちには一刻も早い気持ちの切り替えが求められる。

以上

2012.06.18 Reported by 松下英樹