リーグ中断前の第13節・磐田戦後に、約2年間チームを指揮してきた鈴木淳監督を解任した大宮。新監督には、かつて2000年から2004年までジェフ市原〜名古屋〜仙台を歴任したズデンコ ベルデニック氏を招聘。ホームに昨季リーグ王者である柏を迎え、新生大宮のスタートを切る。
6月6日と9日に行われたヤマザキナビスコカップは岡本武行GMが監督を代行し、ベルデニック体制となったのは6月11日の練習から。初練習前のミーティングから、ベルデニック流が炸裂する。10時練習開始の予定が、選手たちがグラウンドに出てきたのは10時50分ごろ。9時半から始まった練習前のミーティングが白熱し、80分の長丁場になったのだという。「試合のビデオを見ながら、修正点をどんどん指摘した。伝えたいことがいっぱいあるんだと思う」と深谷友基。練習でも細かくプレーを止め、時間をかけてしっかり選手に説明する。「何がやりたいのか、イメージを僕らに伝えるのが上手。慣れればスムーズに行けると思う」(チョ ヨンチョル)と、長くなる練習時間には苦笑いしながらも、選手たちも新指揮官のサッカーを理解するため頭と身体をフル稼働させてきた。
大宮は現在勝点15で15位。順位もさることながら、−11を記録している得失点差は順位以上に深刻な数字で、「得点が少なく失点が多いこと」をベルデニック監督は改善の最重要ポイントに挙げている。守備ではボールを失った瞬間に素早く切り替え、全体をコンパクトに保ちながら、相手のボールホルダーに厳しく寄せていくことを要求。「今まで1m寄せていたところを、50cmまで寄せろと言われている」(片岡洋介)、「一人でもサボると後手後手になってしまうが、上手く連動できれば高い位置で奪えてチャンスになる」(金久保 順)と、集中力と運動量が必要とされる守備をどこまで選手がやりきれるか。
攻撃面でも修正が加わった。鈴木体制ではボランチからゆったりとゲームを作っていたが、「DFラインからタイミングを逃さずトップやサイドハーフに入れて、そこからアクションが始まる」(渡邉大剛)、「ゲームを作るというより、前に入ったボールに僕らがサポートしにいく感じ」(青木拓矢)と、スピードとピッチを広く使うことを要求。また、FWにはサイドに流れたり中盤に下りたりせず、クロスへの飛び込みや中央での崩しを求めており、その面でもこれまでの大宮とは違った、ゴール前に人数の多い迫力ある攻撃が見られそうだ。
それらの修正に伴い、フォーメーションにも変化が見られる。鈴木監督体制では4−2−3−1が基本だったが、サイドがワイドに張り出した、中盤が横並びに近い4−4−2へ。東 慶悟が右サイドハーフに入り、チョがラファエルと2トップを組む。「東には技術と運動量で、同サイドでのサポートや、サイドから中に入ってきてのプレーを。ヨンチョルには1対1の強さと得点力に期待している」と指揮官は語る。当の二人も「やったことがないポジションじゃないし、違和感はない。自分の良いところを出してどんどんゴールにからんでいきたい」(東)、「僕はもともとFW。よりゴールに近くてチャンスが来るので好きなポジション。ラファエルと近い距離でプレーして、スペースでもらったら積極的に仕掛けてシュートを決めたい」(チョ)と意欲を燃やしている。
対する柏は、5月30日にACLを決勝トーナメント1回戦で敗退したため、日立台でみっちりとフィジカル練習を行ってきた。今シーズン序盤は不振を極め勝点17の12位に甘んじているが、5月12日以来リーグ戦3連勝を記録しており、ACLもなくなったことで王座防衛へ本腰を入れてくる構えだ。得意とする完璧なスカウティングから相手のストロングポイントをマンマークで封じ、レアンドロ ドミンゲスとジョルジ ワグネルの技術と創造性で勝点3を奪いにくることは間違いない。ただ、大宮の監督交代によってそのスカウティングに多少のズレが生じる可能性もある。FW田中順也をトップ下に起用し、これまで大宮の攻撃の大部分を演出してきたカルリーニョスのマンマークに当てるという情報もあるが、前記の通り大宮がボランチの位置を飛ばしてきた場合にどうなるか。両サイドハーフのレアンドロとジョルジの攻撃力は脅威だが、同時に二人の守備意識はそれほど高くなく、二人の裏に早いタイミングで「長いボールを入れて起点が作れれば、そこからコンビネーションで崩したり、柏は意外とクロスからの失点も多いしチャンスになると思う」(渡邉大剛)と、大宮が取り組んできた攻撃がそっくりハマる可能性もある。
最後に、リーグ戦では2010年シーズン以来大宮の正GKであり続けている北野貴之が、突き指のためキャッチング練習もままならない状態で、江角浩司が3年ぶりにリーグ戦でゴールマウスを守る見込み。明日出場すれば自身のJ1リーグ戦通算100試合出場となるが、「中断期間のカップ戦には出ているから、良い流れで入れる。試合の中で何度かどうしても起きてしまう決定的な場面をしっかり止めることで、自分たちの流れに持っていきたい」と、強い気持ちで試合に臨む。コンパクトなゾーンディフェンスにはGKからのコーチングと、最終ラインに連動したポジショニングも重要で、その意味でかつての『堅守大宮』をよく知る江角の存在が心強い。。
スタンドで見守るしかない立場にとって新生大宮への期待は大きいが、同時に不安も大きい。あまりの落ち着かなさにそう漏らした筆者に、チーム最年長GKは、「勝つために監督を代えて、勝つためにこの1週間、厳しいトレーニングを積んできた。いろいろな意味でキツい状況だけど、けど、だからこそ乗り越えたときの喜びは大きいはず。それに2007年の監督交代のときのプレッシャーに比べたら、こんなのまだまだ。大丈夫ですよ」と笑った。今はその言葉を頼りに、不安を無理やり押さえつけ、明日のキックオフを楽しみに待ちたい。
以上
2012.06.15 Reported by 芥川和久
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