試合開始と同時に前線から激しくプレスをかけ、攻守がめまぐるしく入れ替わる展開。11分に市川大祐からのパスをDF裏で受けた島田祐輝がGKとの1対1の場面を築くものの、GK荻晃太の好セーブにふさがれてしまう。13分には甲府のダヴィがピンバとのパス交換で抜け出し水戸ゴールを襲う。水戸は中盤でのパスワークを生かしながら、甲府はダヴィの個人技を生かしながらチャンスを作り出した。水戸も甲府も上位戦線に踏みとどまるためにも絶対に勝たないといけない試合。互いの強い気持ちがピッチ上で火花を散らした。緊張感溢れる展開のまま前半を0対0で終えた。
後半に入っても一進一退の攻防は続いた。集中力を切らしたチームが負ける――そんな雰囲気がスタジアムを包んだ。その矢先であった。不運が水戸を襲った。23分、カウンターから抜け出したダヴィが奪った右CK。その直前に「急に(向かい)風が強くなった」(本間幸司)ことで、堀米勇輝が左足で蹴ったボールは風に乗って大きく曲がった。「予想以上に大きく曲がったので目測を誤ってしまった」と話す本間はパンチングで防ごうとするが、当たりそこね、ゴールに吸い込まれてしまう。「アンラッキーな失点」(石神幸征)でどうしても与えたくなかった先制点を許してしまう。
前節、先制点を許してリズムが狂った水戸だが、この日は違った。誰ひとり下を向くことなく、猛攻を仕掛けたのだ。69分には右サイドに流れた鈴木隆行からのクロスをファーサイドで受けた島田がDFをかわしてシュート。GKに防がれてしまうものの、その後も水戸は攻め手を緩めず、72分には甲府ペナルティエリア前で華麗なパスワークを見せて、甲府DFを翻弄。ボールを受けたロメロ フランクが倒されてFKを獲得する。キッカーは橋本晃司。フィールドプレーヤー全員が入った壁をあざ笑うかのように、芸術的なシュートをゴール左隅に決め、同点に追いつく。そのまま水戸が勢いづくかと思われた。しかし、またしても不運に襲われてしまう。
73分、勢いに乗った水戸は激しくプレスをかけるものの、かわされてしまい、空いたペナルティエリア内右サイドを突かれてシュートを打たれる。なんとか防ごうと倒れ込みながらブロックに入った尾本敬の手にボールが当たってしまったのだ。主審はこのプレーに対してPKを宣告。さらに尾本に2枚目の警告が与えられ、退場処分となってしまったのだ。
PK以上に尾本の退場は痛かった。中3日の甲府に対し、水戸は中5日とコンディション的に優位に立っていた。それゆえ、「後半30分で(甲府の)足が止まってくる。そこでクオリティを上げられるか、走れるかだ!」とハーフタイムに柱谷哲二監督が選手たちに伝えたように、コンディションの差が出る後半30分以降に勝負を仕掛けようというプランであった。それが崩れてしまったのだ。ダヴィに冷静にPKを沈められて、万事休したと言っていい。
その後、水戸もなんとか同点に追いつこうと、4−3−2システムから鈴木雄斗を投入し、4−2−3システムに変更して反撃を試みるが、90+2分にDFのミスから追加点を奪われ、力尽きた。痛恨の2連敗を喫してしまったのだ。
3試合ぶりの勝利を手にした甲府。この日は守備陣の奮闘が光った。「隙を作らないということは、前の試合よりも向上した」と城福浩監督が振り返るように、チーム全体の守備意識が高く、水戸の中盤に対して果敢にプレスをかけて自由を与えなかったことが大きかった。特に目立ったのがセンターバックとボランチの山本英臣だ。球際の強さと的確なポジショニング、そして対人の対応などベテランならではの安定感あるプレーを見せて、一番危険な中央のスペースを引き締めたことがこの日の勝因となった。「うまくボールが回るけど隙のあるチームよりも隙のないチームを積み上げていき、質を上げていくと。そういうプロセスを次の試合でも踏んでいきたい」と城福監督が語ったように、今後の進むべき道が見えたことがこの日の最大の収穫と言えよう。貴重な勝点3を手に入れた。
一方、水戸は「全体的にメンタリティはしっかりしていたし、よく走れていた」と柱谷監督が振り返ったように、戦う姿勢を前面に出し、水戸らしいアグレッシブなサッカーを繰り広げることができていた。PKまでの内容はまったくの五分だっただけに、度重なる不運が悔やまれる。
だが、“不運”が水戸の弱さを教えてくれた。11分と69分に作った決定機は必ず決めなくてはならなかったし、自陣での不用意なミスからピンチを招くシーンもあった。そして、PKの場面も「クロスボールを警戒してしまって、同サイドでフリーマンを作ってしまった」(柱谷監督)という守備のミスが原因であった。試合自体は狙い通りの展開で進めることができたが、勝負所の強さが水戸に足りなかったことが“不運”によって浮き彫りにされた。「サッカーの神様に見放されてますね」と橋本晃司は冗談交じりで口にしたが、サッカーの神様が「もっと強くなれ」と“強者”になるための試練を与えてくれているのだろう。苦しい時こそ成長のチャンス。自分たちの弱さを真摯に受け止め、チーム一丸となって前に進んでいかなければならない。その先に本物の強さが待っている。
以上
2012.06.14 Reported by 佐藤拓也
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