結果から言えば2-2のドロー。自作自演に等しい失点場面を考えると、ある意味勿体無い試合だった。しかし、その内容は今後の飛躍に大きな期待を抱かせるものだった。アルウィンのピッチに、遂に『木島徹也』が還ってきたからだ。
始まりは予想外だった。開始直後の8分、ボールを受けた木島徹がそのまま前を向き、左サイドを一気に駆け上がると、中央に切り込んで自ら打つ選択肢もあったが、「シオさんがいいところにいた」と、ファーサイドからゴール前に詰めていた塩沢勝吾に矢のようなクロスを供給。「胸でトラップして、そのままボレーした。難しいボールではなかった」と、綺麗に左足で流し込んだ塩沢も賞賛するアシストで先制点。
しかし、15分と16分に立て続けの失点。同点弾は多々良敦斗のバックパスの処理ミスであり、その1分後の逆転弾は城後寿による60メートルほどの超ロングシュートが吸い込まれるようにゴールネットに突き刺さったものだった。僅か2分で逆転。あまりの急展開にスタジアムのあちこちから戸惑いの声が多く漏れた。
ここから同点に追いつき、更に勝ち越すのは、得点力不足に悩まされている松本には難作業に思えた。事実、18分に鐡戸裕史がヘッドで、22分には船山貴之がループシュートで福岡ゴールを脅かすが得点には至らない。その後のCKからのセットプレーも生かせずに前半を折り返す。
後半、反町康治監督は「福岡がブロックを作って、崩せない。ブロックを作る前にボールを入れよう」と、決定的なパスを通すことが出来る大橋正博をボランチに起用することで攻撃に比重をかければ、福岡も左サイドをサミルからキム ミンジェにチェンジし、活性化に成功。目まぐるしく攻守が入れ替わる一進一退の様相を呈していた70分、ペナルティエリア内に攻め込む木島徹が、福岡DF小原章吾に身体で止められ、その場へと倒れこんだ。
その瞬間、主審の笛が鳴り、その指はペナルティスポットを指した。
自ら得たPKの好機を自ら押し込み、Jリーグ初得点となる同点弾で、試合は遂に振り出しに戻った。その後の残り20分間はお互いに中盤を省略するような形で前線に素早くボールを送る展開。結局追加点こそ生まれなかったが、遮二無二ゴールを狙う両チームの闘志のぶつかり合いは、最後まで試合を熱くした。
試合後、「Jリーグ初というより、同点ゴールという気持ちの方が強い」と未だ好感触は掴みかねる表情を浮かべていた木島徹だったが、得点力不足の松本にとって、その前への推進力とゴールへの意欲はやはり出色のものだ。昨シーズンはJFLで得点王争いを演じたが、ここまでは苦しい状況が続き、葛藤を素直に口にすることもあったが、結果・内容ともに遅ればせながらの飛躍を期待させるもので、この一戦は松本にとって一つのターニングポイントになりそうな予感すらあった。一方、アウェイの福岡は成岡翔が不在の一戦だったが、中盤から左右にボールを動かす自分たちのサッカーを存分に披露。松本を翻弄する時間も長く、前半の2点で勝点3を掴みかけていただけに、もったいない試合ではあった。
最後に。反町監督は「平日のナイトゲームで、天気もあまり良くない予報の中、たくさん集まっていただいて感謝しています。サポーターが少なければ、追いつくことが出来ないゲームと感じています」と、サポーターに感謝の弁を述べた。アルウィンに7,111人の観客が集まった今シーズン初のナイトゲームは、確実に『12番目の選手』であるサポーターの力がゲームを動かした。
以上
2012.06.14 Reported by 多岐太宿
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