おそらく、こういう時にこそ、本当の価値＝真価が現れるのだろう。
広島にはもう、予選突破の希望はない。残り２試合を残しての敗退が決まった。客観的に見て、大会に臨むモチベーションはあがらない状況ではある。
だからこその「真価」である。プロとは何か。そこを真摯に考える、いい機会ではないか。

明日、広島ビッグアーチにやってくるのは、勝点９の３位につけ、クラブ史上初となるヤマザキナビスコカップベスト８進出を狙う鳥栖のサポーターばかりではない。その多くが、紫の戦士たちを応援してくれるサポーターだ。決して安くはないチケット代金を払い、土曜日の夕方という貴重な時間を割いて、選手たちをサポートするために来てくれる。そんな人たちのために、いったい何ができるのか。

勝敗は、時の運が左右することもある。絶対に勝つとは言えないのが、真剣勝負の世界。だが、勝利を超えるカタルシスは、スポーツの世界ではなかなか存在しづらいことも確かだ。では、プロとして何をサポーターに提供するべきなのか。プロスポーツが「チケット」と引き換えに提供するものは、突き詰めていけば「感動」、見ている方の心を動かすこと。そのために最も効果的な方法は勝利。プロフェッショナルがやるべきことは、どんな時も変わらない。サポーターのために、勝利することだ。

広島は、仙台戦で出場停止だった青山敏弘と森脇良太が戻ってくる。両サイドの山岸智やミキッチの出場はコンディション次第、代表組である西川周作とファン ソッコの試合出場は無理だが、少なくとも青山と森脇の復帰はチームにとって大きなメリットとなるだろう。
それはただ、技術や経験だけの問題ではない。誰よりも厳しく自分を律し、サッカーに対してシビアな取り組みを続ける青山と、どんな時もネガティブな言葉を発せず、チームの空気を盛り上げる森脇。スタイルは違うが、共に広島にとっては欠かせない存在。何よりも重要なのは、この二人がどんな時も自分の１００％の力を出しつくそうとすること。それはたとえ大差がついた試合であっても、上にいける可能性を失った状況であっても。サッカーの世界でいう「モチベーション」を常に高い状態で発揮できる選手たち。だからこそ、彼らは愛される。

今季、決して前評判が高くなかった広島が、リーグ戦で２位につけることができているのは、全ての試合で彼らの全力を尽くすことができているから。それは、敗退が決まったヤマザキナビスコカップも同様。結果はともかく、選手たちはどんな試合でも、１００％の準備をして試合に臨んだ。気持ちを強く持ち、最後まで諦めずに激しく闘った。その発露が、残り15分での得点率の高さ（全得点中42.8％がこの時間帯に生まれている。この数字はＪ１トップ）となって結果にも現れている。そして水曜日の仙台戦でも、「何とか１点を」と試合終了間際まで広島は攻め続けた。そして青山と森脇は、今季の広島の精神である「最後まで諦めない」姿勢をもっとも強く体現している二人。森脇はアディショナルタイムに２度、劇的なゴールを生み出し、その２度とも演出者は青山だったのだ。

鳥栖はいい試合を続けている。リーグ戦ではＧ大阪を相手に０−２の逆境を跳ね返してアウェイ初勝利。そして水曜日の試合では、浦和の質の高いサッカーに苦しめられつつも、途中出場の水沼宏太が見事な得点を決めて、勝点３をゲット。堅守ばかりが話題になっているが、ここ数試合は得点もとれるようになってきた。
その中心にいるのは、何といっても豊田陽平。抜群の身体能力を誇る鳥栖のエースは、公式戦３試合連続得点中。浦和戦・Ｇ大阪戦共に藤田直之のロングスローを強烈なヘッドでゴールネットを揺さぶり、相手守備陣を唖然とさせた。決勝トーナメント進出のためには、広島戦の勝利は絶対条件。勝って最終節の対Ｃ大阪直接対決に予選リーグ突破を賭けたい。その野望を達成するには豊田や水沼を中心とする攻撃陣の爆発が、必要不可欠だ。
リーグ戦では、鳥栖の堅守と水沼のファインゴールの前に広島は敗れている。森崎和幸に豊田がマンマークにつくなど、徹底した広島対策を徹底してやり遂げた彼らが、再び何かしらの「広島対策」を仕掛けてくる可能性も否定できない。だが、同じ相手に２度、続けて負けるようでは、リーグ戦での躍進もおぼつかない。何より、ホームでの連敗は、選手たちの意地が許さないだろう。

プロフェッショナルであれば、どんな時も貪欲に勝利を求める。サポーターに感動を届けるために、全力を尽くすのみ。明日の広島ビッグアーチで、そんな誇り高きプロフェッショナル同士の野望と意地がぶつかりあう。

以上

2012.06.08 Reported by 中野和也