リーグ戦では首位と２位、共に好調同士といっていい。しかし、ヤマザキナビスコカップでは様子が違う。仙台は勝点３で予選リーグ６位、広島は３試合でわずか１ポイントしかあげられず、最下位に沈んでいる。
特に広島は、もう引き分けすら許されない状況だ。もし明日の試合で勝点１に終われば、残り２試合で全勝しても８ポイントまでしか到達せず、現在首位の磐田には追い付けない。そして明日の試合で現在勝点６のＣ大阪・鳥栖・浦和のうち、１チームでも勝利すれば広島の予選リーグ敗退が決まる。佐藤寿人は「これからの３試合はトーナメント。１試合でも勝てなければ敗退すると思っている。明日は準々決勝だ」と必勝を期す。また森崎和幸も、「状況によってはリスクを負って攻撃しないといけない。勝たないと意味がないから」と強調する。一方の仙台も、引き分け以下ではリーグ突破が非常に厳しくなる。つまりこの１戦は、決勝トーナメント生き残りをかけたサバイバル対決。共に勝利だけを求める激しい闘いとなるはずだ。

ただ、その決戦にあたり、両チームとも主力を怪我や出場停止で欠いてしまうのは痛い。広島は西川周作が日本代表、ファン ソッコはU-23韓国代表に招集中。青山敏弘・森脇良太も出場停止で他にも出場が微妙な負傷者もいる。一方の仙台は、上本大海・関口訓充・鎌田次郎が負傷で欠場が確定的、さらに左サイドバックの田村直也も出場停止。共にメンバー構成上は苦しいが、こういう厳しい台所事情を救う救世主が出てきたチームこそ、サバイバルにふさわしい。

広島の場合、それが誰になるのか。例えば、西川に代わってゴールマウスの前に立つことが濃厚となった「子供の頃から広島ビッグアーチでプレーするのが夢だった」と語る地元出身のU-23日本代表ＧＫ＝増田卓也か。札幌戦でＦＫ弾を決め、復調へ大きく一歩を踏み出した森崎浩司か。あるいは、最近の練習で大きな進歩を見せている鮫島晃太か。
特に鮫島は、今回のチャンスをどうしてもモノにしたい「理由」がある。高校時代は柴崎岳（鹿島）・小島秀仁（浦和）と共に「３羽ガラス」の一人と目され、数多くのクラブから誘いを受けた逸材。だがプロ入り後の彼には、大きな壁が立ちはだかった。思うようなプレーがまったくできない。得意だったはずのスルーパスも通せず、焦りから判断の精度も狂ったまま修正できない。１年目の昨年は紅白戦にすら出場できず、２年目もミスを連発して自信をさらに失った。その間、柴崎や小島はチャンスを与えられ、柴崎に至っては日本代表合宿にも招集されている。「悔しい」。そうぽつりとこぼしたこともあった。
ただシーズンに入って、高萩洋次郎から「自分のやりたいようにやればいい」とアドバイスをもらったことで、いい意味で開き直ることができた。忘れかけた積極性を思い出し、攻守にわたってアグレッシブに動くことができるようになった。今週の練習でも、相手のパスを思い切った動きだしでインターセプト、そのままゴールに叩き込むようなプレーを何度も見せている。公式戦の緊張感さえ味方につければ、十分に結果を出せるポテンシャルは持っている。だからこそ、チャンスが欲しい。結果を出したい。先行する同世代のライバルたちを捕まえるためにも。
もっとも、青山不在となる広島のボランチだが、チームにはこのポジションの経験が豊富な選手も多い。森崎和幸や中島浩司、さらに森崎浩司もボランチでプレーできる。森保一監督もギリギリまで選手起用については悩むところだろう。ただ、鮫島はいつ起用されてもいいように、準備だけは怠っていない。

一方の仙台も、ボランチに大卒ルーキー・奥埜博亮が抜擢される確率が高くなった。視野の広さと高い技術を駆使して試合を創るスタイルは鮫島とも似ている。千葉直樹の「７番」を継承するなど、期待の大きさも伺える仙台ユース出身ボランチが台頭すれば、仙台の中盤の層は一気に厚みを増す。両チームともメンバー構成に苦しんでいるのは確かだが、ここで抜擢した選手が結果を出せば、今後のカップ戦だけでなくリーグ戦にもつながってくるはずだ。

ただ、そこは副次的な産物にすぎない。繰り返すが、明日は両チームにとってのサバイバル。勝ったチームが上に向かう挑戦権を獲得し、負けた方は敗退に大きく近づく。特に広島にとっては、まさに生か死か。ピリピリとした緊張感の中で試合を待つ広島ビッグアーチ、明日の夜の天候は晴れの予報。降水確率も０％と決戦にはうってつけだ。

以上

2012.06.05 Reported by 中野和也