大宮はリーグ第13節磐田戦終了後の5月29日、2010年4月から2年間チームの指揮を執ってきた鈴木淳監督を解任した。翌30日に行われた会見で鈴木茂社長は、「勝点50の目標を今のままでは達成できないと判断した」と解任理由を説明。6月4日には2000年から市原(現・千葉)、名古屋、仙台の監督を歴任したズデンコ ベルデニック氏の新監督就任を発表した。新監督が指揮を執るのはリーグ再開の16日に行われる柏戦からで、明日と9日のヤマザキナビスコカップは岡本武行GMが兼任して監督代理を務める。
「期間も短く、大きく戦い方を変えることはできない。鈴木前監督のやってきたことをベースに修正していく」という岡本GMは、まず「失点が多いので守備を安定させたい」と、守備の再構築に時間を費やした。ボランチから前の選手たちのメニューはヘッドコーチに任せ、自らはディフェンダーだけを集め、ボールの位置に応じたDFラインのポジショニングとラインの上げ下げを入念に指導。ここ数代の監督時代にはおよそお目にかからなかった練習だ。以前は「きっちりゾーンでという感じじゃなく」(菊地光将)、「個人に任せるところが多かった」(深谷友基)守備から、「ゾーンでポジションを崩さず、等間隔を保って、積極的に奪いにいくというより中に入れさせない」(渡邉大剛)守備へ。懐かしの、三浦俊也監督時代を彷彿させる『堅守大宮』の象徴であったゾーンディフェンスを、今はその時代を知る選手たちは数えるほどしか残っていないが、どれだけ徹底させることができるか注目だ。
一方の神戸もまた4月30日に和田昌裕監督を解任し、安達亮ヘッドコーチが5試合を率いた後、リーグ13節の鹿島戦から西野朗新監督が指揮を執っている。神戸にとって監督解任後の第一戦が、神戸のホームで迎えた大宮戦であったことを考えると、何か因縁めいたものを感じなくもない。その大宮戦はストロングポイントのハイプレスとショートカウンターがハマり、神戸が3−0で快勝。続くC大阪戦も連勝したが、その後はヤマザキナビスコカップを含めて4連敗中。リーグ戦での勝点は大宮と同じ15にとどまり、得失点差で順位は大宮の15位より一つ上だが、チーム再建に時間がかかってしまうと降格も現実味を帯びる位置だ。そしてともにヤマザキナビスコカップでは、大宮が勝点2の6位、神戸が勝点0の7位(最下位)と、消化試合数が一つ少ないことを差し引いてもグループリーグ突破が極めて厳しい状況にある。
ただ、大宮にとっても神戸にとっても、グループリーグ突破の可能性がどうとか関係なく、明日の試合は全力で結果を求めていかなければならない。主力を温存などと言っていられる状況でなく、ベストメンバーを組んで、チーム再構築のための貴重な実戦の場とする必要があるからだ。大宮は金 英權、神戸は伊野波 雅彦を代表招集で欠くが、これはどちらかというと神戸にとって痛い。西野監督就任以来、神戸はハイプレスとショートカウンターに加え、しっかりビルドアップして崩すことも意識付けされてきている。実際、鹿島戦の後半はボランチの位置にポジションを移した野沢拓也を中心にボールを回してゲームを支配しているが、そのビルドアップに大きな役割を担ったのが、ボランチからセンターバックに下がった伊野波だった。その伊野波が、この試合にいないことよりも、チーム作りの場から2週間近く離れていること自体が西野監督にとっては痛いだろう。「大久保嘉人や野沢らスペシャルなものを持った選手」(岡本GM)を擁する前線は十分に危険なだけに、ボランチから後ろの構成をどう作ってくるか、こちらも注目だ。
ともに監督交代に伴うチームの立て直し期間にあるが、大宮は守備を、神戸は攻撃を修正することでそれを図っている。となると、こんな試合展開になるのではないか。引いてゾーンで守り、神戸のハイプレスを嫌ってロングボールによるカウンターで勝機を探る大宮と、ハイプレスを飛び越えられてショートカウンターがハマらず、ポゼッションで崩しにかかる神戸。主導権は神戸が握るかもしれないが、大宮の前線にはラファエル、東 慶悟、チョ ヨンチョルらカウンターにも対応できるアタッカーがそろい、カルリーニョスをはじめ正確なロングボールの出し手もいる。神戸がポゼッションで崩しきれなければ、一転して大宮のカウンターが襲うだろう。
リーグ戦およびカップ戦の順位はそれぞれ低調だが、それを脱するために監督交代の決断をしたチーム同士が、立て直しのためにどうしても結果がほしい一戦。ゾーンディフェンスvsポゼッション、ともにチーム立て直しの修正ポイントがぶつかる、面白い戦いになりそうだ。
以上
2012.06.05 Reported by 芥川和久
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