前半の水戸はまるで風車に突撃するドン・キホーテのようだった。厳重な門を閉じたかのように自陣で強固な守備ブロックを形成する栃木に対し、水戸は中盤でボールを動かして栃木の守備を揺さぶりながら穴を見つけ出そうとした。しかし、栃木のプレスの網に引っ掛かり、カウンターからピンチを招いた。ぶつかっては跳ね返される連続。泰然と立ちはだかる栃木とは対照的に水戸の姿は非力に映った。
「こちらのゲームだと思っていた」と松田浩監督が振り返るように、守りながらリズムをつかむ栃木ペースで進んでいるかのように思われた。しかし、栃木の守備に跳ね返されながらも、水戸の選手たちは常に穴を見つけ出そうと必死に頭を回転させていたのだ。栃木のタイトなプレスを受け、中央で起点を作れずに苦しんだが、それでもサイドチェンジや縦パスを入れながら攻め手を探った。ミスを恐れずに自らアクションを起こしてトライし続け、戦況を変えたのであった。
前半の終盤、水戸は栃木の守備網にわずかな穴を見つけ出す。それまで完全にふさがれていたDFとボランチの間のスペース。だが、左右に揺さぶりをかけたことで徐々に栃木は埋めきれなくなる。そして41分、橋本晃司が入り込み、縦パスを受ける。鈴木隆行とパス交換を行い、栃木の守備陣形を中央に寄せておいて、右に展開。小澤のクロスは相手DFに当たってCKとなってしまうが、橋本が蹴ったCKのこぼれ球を西岡謙太がミドルシュート。DFに当たってこぼれたボールを塩谷司が豪快にゴールに蹴り込んで、水戸が先制する。水戸のポゼッションサッカーが栃木のゾーンディフェンスを打ち破って手にした先制点。「自分たちのサッカーを貫けば、結果につながることが分かった」と橋本は胸を張った。
4試合勝利のなかった水戸。特に直近3試合は守備を固める相手を崩せずに、自分たちのバランスを崩して勝利を逃してきた。それゆえ「守って走ってくるチームは苦手」(橋本)というイメージがチームについていた。今節も過去の残像との戦いとなったが、3度も経験しているだけに冷静に戦うことができた。「みんな落ち着いてゲームできましたよね。負けると悪循環になって、焦って前に蹴ってスタイルを崩したり、縦に急ぎすぎてしまうところがありました。急いでいるときこそ、横のパスを入れると落ち着きますし、違う角度から縦に入れられるようになる。そういうパスを今日は使えました」と橋本が振り返るように、相手のタイトなプレスに苦しみながらも焦れることなく、ボールを動かして穴を開けてみせた。チームの進化を証明したのであった。
一度門を開けてしまうと、栃木の守備は脆弱であった。前に出る意識が強くなったため、中盤にスペースが空きはじめる。鈴木隆行と橋本が起点となり、サイド攻撃を誘発。両サイドから果敢に攻め立て、栃木ゴールを襲う。50分に中央で鈴木隆が起点となり、左サイドに展開。島田祐輝のクロスを小澤がボレーで合わせて追加点を挙げる。その後も水戸は北関東の後輩を容赦なく叩きのめした。72分には栃木DFのクリアミスを拾った橋本が右足アウトサイドでダイレクトスルーパス。抜け出した島田が落ち着いてゴールに流し込み、ダメ押しゴールを決める。終盤、栃木のパワープレーに押し込まれて、1失点したものの、北関東の後輩に力の差を見せつけて5試合ぶりの勝点3を手に入れた。
水戸のポゼッションに耐えきれずに崩れてしまった栃木。ただ、守備よりも攻撃に問題があるだろう。「ミス以外ピンチがなかった」と塩谷が言うように、流れの中で水戸ゴールに迫れなかったことが悔やまれる。「点が入らないことには優勢勝ちはない」と松田監督の言葉通り、前半は守備でリズムを作ることができたものの、攻撃に出る人数が少なく、ゴールをこじ開けられなかった。水戸も栃木も守備の安定感が売りのチームであるが、ボールを運ぶことに関して、水戸が一枚上手だったことが結果として表れることとなったようだ。
結果を見れば、水戸は完勝したが、決して手放しで喜べる内容でもなかった。「もう少し早く(中央で起点を作ることを)やりたかった」と橋本が振り返るように、リズムを作るのに40分もかかってしまったことは修正すべき点である。また、試合終了間際の失点も「決められてはいけなかった」(本間)。攻守において課題を残す内容であった。
ただ、「今までは勝った後に反省することはなかった。でも、今日は課題が出たし、試合後みんなで話をしていた」と本間は言う。それこそ、チームの変化である。4連勝による慢心が4試合勝利から遠ざかる一因となっただけに同じ過ちは繰り返してはいけないという意識がチーム内に浸透しているのだ。選手たちは北関東ダービーを制した余韻に浸ることなく、すぐに次の戦いを見据えることができている。水戸の誰もが分かっていることだろう。最も大事なのは次の試合だということを。
以上
2012.06.03 Reported by 佐藤拓也
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