「今節はただの1試合ではない。（北関東ダービーの）カップが懸った試合。リーグ戦の1試合ではない」。柱谷哲二監督は珍しく報道陣の前で「ダービー」を強く意識する言葉を発した。これまでの試合では「選手たちに伝えていた」と言うものの、報道陣の前では「あまり意識をしていない」と冷静を装っていた柱谷監督。だが、今回は違った。今回の発言から、今節の一戦はこれまでとは意味合いの異なるゲームと捉えているということがうかがえる。現在勝点25で並ぶ両チーム。上位争いに食い込むためにも絶対に勝たなくてはいけない一戦。ダービーであり、上位争いへの生き残りをかけた一戦でもある。柱谷監督が闘志を燃やすのも無理はない。

ダービーがもたらす影響の大きさを柱谷監督はよく理解しているのだろう。それは両チームの今季の結果から見れば明らかだ。水戸は草津とのダービーで勝利してから4連勝を飾り、栃木も草津に勝ってから現在の4試合負けなしと上昇気流に乗った。現在4試合勝利のない水戸としては、このダービーをきっかけに再浮上を狙いたいところ。「ただの1試合ではない」のだ。

とはいえ、水戸としては厳しい試合になることだろう。今の栃木の状況は水戸とは対照的で、4試合負けなしと絶好調を維持しているのだ。リーグ序盤こそ、なかなか波に乗れなかったが、新加入選手たちがチームにフィットしたことで一気にギアが上がることとなった。前節は東京Vに攻め勝ち、3対2で勝利。選手たちは大きな自信を手にすることができた。その勢いのまま今節ケーズデンキスタジアム水戸に乗り込んで来ることだろう。

認めたくはないが、栃木は強い。特にメンタルの強さは水戸よりも一枚上だ。「J1昇格」を掲げて挑んだ昨季。目標を達成することはできなかったが、選手たちにとって貴重な経験になったことは間違いない。それが今季生きているように思える。リカルド ロボ（柏）という絶対的なストライカーを失いながらも、今季で4年目となる松田浩監督の戦術を信じて、チーム一丸となって戦えているのが強さの秘訣。劣勢の展開でも焦れることなく、粘り強い守備で耐えることができ、相手の疲れが見えてきた時間帯に隙を突いてゴールを奪うというしたたかな戦いができている。

特に気をつけなければいけないのが、元水戸の菊岡拓朗だ。水戸時代に何度も見せた鋭いスルーパスはもちろん、今季はセットプレーから多くのゴールを演出している。栃木の全20得点中7点がセットプレー絡みということからも、菊岡の存在の大きさがよく分かる。水戸としては菊岡を封じることはもちろん、危険な場所でセットプレーを与えないことが重要となる。たとえセットプレーを与えたとしてもゴール前で体を張って跳ね返し続けたい。そのためにも栃木以上の集中力と気迫を持って試合に臨まなければならない。

5試合ぶりの勝利に燃える水戸だが、「まだ甘さがある」と本間幸司が言うように、チーム状態はいいとは言えない。特に4試合で1得点という攻撃陣には大きな問題がある。いい形で攻め込みながらも、ゴール前での強さを欠き、無得点で終わるという試合が続いている。そして前節終了後、柱谷監督はついに爆発した。ロッカールームで選手たちに向かって「ゴールへの執念が足りない！」と激怒したのである。「勝つためにはゴールが必要」（本間）であることは言うまでもない。しかし、きれいに崩そうとするあまり、ゴールへの意識が希薄になってしまっている。「相手もゴール前は必死に守ってくる。どんな形を作っても、執念を持ってないとゴールなんて生まれるわけがない」と柱谷監督は選手たちに訴えたのであった。それゆえ、今週はシュート練習に時間を割き、選手たちのゴールへの意識を強めた。ゴールは“決まる”ものではなく、“決める”ものである。その意識を持って戦うことができるか。

ただ、それは“ゴール”だけの問題ではない。要は「勝ちたい」という気持ちがあるかどうかに帰趨する。「本気で勝とうとしているのか。本気で点を取ろうとしているのか。その気持ちを出していかないと勝てない」と本間は言う。この「ただの1試合でない」一戦で水戸の選手たちはどのような姿を見せるのか。水戸は北関東の王者に君臨し、「J1昇格」を目指す資格のあるチームだということを、栃木よりも多くのゴールを奪って証明しなければならない。ゴールなくして勝利はない。栃木の堅守を打ち破り、自らの可能性を誇示したい。

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2012.06.01 Reported by 佐藤拓也