GK権田修一は、ピッチに顔をうずめて握った拳を打ち付けた。MF梶山陽平は両手で頭を抱えた後、曇りがかった夜空を見上げた。周りには、ふらふらと力なく腰を地面に落とす選手もいれば、腰に手を置いて息を吐き出す選手もいた。それぞれの動作は違っても、誰もが重たく圧し掛かる結果に反抗していた。FC東京にとって初のACLは募る悔しさを残し、ベスト16で終わった。
広州恒大FCは強かった。高温多湿に慣れていないF東京は、本来の力を出し切れなかったのかもしれない。認めたくないはずだが、認めなくてはいけない敗戦だった。ゲームをトータルで見ると、まだ拙い場面がある。まだまだパスや、ポジショニングに、小さなミスもあった。0−1は、現時点のF東京にとっては正しい結果だったのかもしれない。
試合開始とともに、広州が大観衆の声援に押されて攻勢を仕掛ける。その攻撃は鋭く、鮮やかだった。ムリキの速さや、コンカの技術は、アジアの基準を超えていた。彼らを信頼して周囲の選手も迷いなく動いた。ただし、傍目から見ても飛ばし過ぎていた。
F東京の選手たちも「しのげばチャンスは来る」と、肌で感じていた。ゴールへと迫り来る攻撃を防ぎ、0−0で試合は進んだ。時間の経過とともに、広州の中盤の足が鈍くなり始めていた。このまま0−0で前半を乗り切れば、後半に反撃の機会が訪れることが確信に変わり始める。
スタジアムの電子時計は30分を刻もうとしていた。その矢先、F東京は左サイドをパス&ムーヴで破られてしまう。最後はFWクレオに押し込まれ、ゴールネットが揺れる。それにスタンドが応えて拍手が飛び交った。残り15分の我慢が足りなかった。
1点リードを許した後半は、実際にF東京が主導権を握った。運動量の落ちた広州の攻撃は、前線に残したムリキのカウンター攻撃に偏った。迫力満点の突破で何度か危ない場面を作られたが、守備陣が踏ん張って0−1のまま、ゲームを推移させた。ベンチからは、次々と攻撃のカードが投入されていく。終盤はポストを叩く場面や、ゴールをかすめるシュートも放った。ゴール前に抜け出し、惜しい場面も作った。だが、ネットを揺らすことはできなかった。試合終了の笛とともに、F東京のアジアでの初挑戦は終わりを告げた。
ポポヴィッチ監督は、肩を落とす選手に、両手を鳴らした。一人ひとりと握手を交わし、目を赤くする権田を胸に引き寄せて言葉を掛けた。指揮官は、こう言った。
「結果は残念だが、私たちの選手を誇りに思うし、幸せにも思います。今日、私たちが示したのは、やはりサッカーがお金だけではないということ。そして、サッカーにとって何が裕福なことなのかを、財産なのかを示すことができたと思っています。私たちのチームのプレーのクオリティ、そして将来性、未来に向けた方向性を見せられた。そういう意味では、私たちがお金では買えない裕福なチームだということを見せられたと思う」
初めて体験したアジアの舞台は、楽しさの中にも、最後にちょっと苦い思い出が残った。ミックスゾーンに現れた権田は、「結果がすべて」だと切り出し、しゃべっても、しゃべっても「今はまだネガティヴな言葉しか思いつかない」と話した。無理やり感情を制御させて口を突いて出たのは「欲はずっとあります。そして、来年もう一回この舞台に立って今年した経験を生かしたい。だから全部勝ちたい」という言葉だった。
長距離移動や、アウェイの空気。試合の運営や、手配も含めてすべてがクラブの経験に蓄積された。もっと言えば、戻りたいと思える場所がまた1つ増えた。それは、何よりも、このまだ若いクラブの財産となった。では戻るために何をすべきか。権田の言葉がすべてだろう。現時点のF東京がベスト16を超えることはできなかった過去は変えられない。ここで自己終息させてエネルギーを新たな目標に向かわせなければいけない。これまでがそうだったように、未来のF東京は自分たちの手で作り上げていくものだから。
以上
2012.05.31 Reported by 馬場康平
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