立ち上がりから、柏はキム シンウクとイ グノへのロングボールを多用する蔚山の攻撃を浴びていた。細かいパスワークを多用せず、後方からシンプルに前線へ放り込みを続ける彼らの攻撃に、柏のセンターバックコンビ、近藤直也と増嶋竜也も体ぶつけて競り合うのだが、キム シンウクの圧倒的な制空権と、彼のヘディングに連動してイ グノ、キム スンヨンがタイミング良くDFの背後へ入り込み、次々と柏のゴールへ襲いかかる。その決定機の数から言えば、柏は前半のうちに2、3点決められていてもおかしくはなかった。
GK菅野孝憲の好守や相手のシュートミスにも助けられ、苦しめられていたロングボールから守備が決壊することはなかったが、思わぬミスが致命傷となり、失点を招いてしまう。54分、ビルドアップの段階で那須大亮の横パスがイ グノに奪われ、そのまま縦への突進を許す。そして右からのクロスに対し、キム シンウクの豪快なヘッドが突き刺さった。
ネルシーニョ監督は、ハーフタイムに相手のロングボール攻撃を封じる手立てに加え、ボランチには最終ラインからパスを引き出して、中盤のパスワークを円滑に進めながら前線の攻撃に絡めという指示を送った。“劇的”というほど極端に流れが変わったわけではないが、前半までのロングボールを蹴っては蔚山の2センターバック、クァク テヒ、イ ジェソン、ボランチのイ ホに弾き返され、そこでセカンドボールを拾われてカウンターを招く悪循環からは脱し、柏らしいボランチを経由したビルドアップを進めたことで、レアンドロ ドミンゲス、ジョルジ ワグネルがバイタルエリア周辺の高い位置でパスを受けられるようになり、必然的に攻撃の厚みが加わる。そして66分、増嶋のロングスローをレアンドロが頭で決めて1−1の同点とした。
ボランチに高い位置取りを要求するということは、キム シンウクとイ グノをマークする近藤と増嶋のフォローとカバーリングはボランチではなく、両サイドバックが絞って担うことになる。すると今度はサイドにスペースが空き始めるため、蔚山は当然そこを突いてくる。71分のオウンゴールによる蔚山の追加点は、ニアで足を出した近藤のプレーや、かき出し切れなかった菅野のプレーを問うよりも、コ ソルギに右サイドを難なく突破され、クロスを折り返させてしまった部分こそ問題だった。
柏は澤昌克を投入。ジョルジをボランチに置くスクランブル態勢を取り、怒涛の攻撃から決定機も生み出した。だが蔚山は、前半の柏ばりにDF陣が粘り強く守り切り、同点弾を阻止すると、逆に88分、左サイドのカン ジンウクが中央へ入れ、イ グノが個の決定力の高さを誇示する完璧な一撃で加点。3−1と柏を突き放して勝利を大きく手繰り寄せた。
後半アディショナルタイムには、パワープレーのボールをレアンドロが巧みにディフェンスラインの背後へ流し、パスを受けた田中順也が豪快な左足を見舞うが、反撃には時間が少なすぎた。アディショナルタイム4分が過ぎると、無情にも試合終了を告げるレフェリーのホイッスルが鳴り響いた。
試合後、「相手は単純にロングボールしかなかった」(増嶋)と選手たちは悔しさを露わにした。ディフェンスラインから丁寧なビルドアップと、ピッチ全体をワイドに使って攻撃を組み立てるスタイルを標榜する柏にとっては、単純にボールを蹴り、前線の選手の個の能力に委ねるサッカーに屈したという事実は、確かに悔しさが募るだろう。ただ、選手たちは同時に、いくら単調でもそういったパワーを前面に押し出すサッカーを打ち負かさなければ、アジアの頂点には立つことはできないと痛感したはず。フィジカル的にもっとタフになり、戦術をよりいっそう洗練させていく。自分たちがACLを勝ち抜くために何が足りないのか。それを貪欲に追求していくことが、今後の柏に課された重要なミッションになる。
以上
2012.05.31 Reported by 鈴木潤
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