スコアが動くことはなかった。湘南は前半PKのチャンスを掴んだが、徳島もGKオ　スンフンのビッグセーブによってこれを防ぐ。後半に入ると湘南は退場によって10人となり、逆に徳島はひとり少なくなった相手を尻目に猛攻を仕掛けた。だが湘南も粘り強くはね返し、今季初対決の両者は勝点1ずつを分け合った。

アーリークロスを含め、シンプルに前線を目指す徳島に対し、湘南はパスワークで崩しにかかる。序盤こそパスが合わない場面が目についたが、蹴り込む相手にポゼッションで上回り、次第に攻撃の重心を敵陣へと移していく。ゴールに近づいたのは20分過ぎのことだ。阿部伸行のゴールキックから古林将太や坂本紘司を経て、菊池大介がペナルティエリアへ仕掛ける。ドリブルによって攻撃のスイッチを自ら示した格好だった。しかし遠藤航のPKは守護神の的確な反応に阻まれてしまう。「力を抜いて跳んだ。止めることができてよかった」と、GKオ曰く。一方、遠藤は前半終盤に負傷し、ピッチを後にした。

後半に入り徳島は、システム上生まれる湘南の両サイドの裏のスペースを2トップが突き始める。思えば、前半アディショナルタイムにサイドチェンジから津田知宏が右サイドで仕掛けたシーンは呼び水だったかもしれない。頻繁な裏へのアタックもあり、大野和成が立て続けに警告を提示されてしまい、残り30分あまり、湘南は10人の戦いを余儀なくされる。

数的優勢に立った徳島は、途中出場の太田圭輔が絡み、右サイドからの攻撃が活性化した。クロスを入れ、あるいは津田が侵入して折り返すなどして攻め立てる。対する湘南も、負傷の遠藤に急きょ代わっていた山口貴弘をはじめ、DF陣を中心にゴール前で体を張った。また防戦にとどまらず、右サイドを落ち着かせた猪狩佑貴、さらに終盤には中村祐也が前線に入り、カウンターを繰り出しゴールを目指す。徳島もまたリスタートから速攻でゴールを脅かす。互いにリスクマネジメントしながら最後まで勝点3を追いかけた。

勝利が欲しかった、と口々に聞かれた徳島だが、2戦連続で無失点ゲームを演じ、アウェイで勝点1を奪った事実はポジティブに捉えられる。「5月はいいかたちにチームが変わってきた。もうすこしレベルアップできるように頑張っていきたい」小林伸二監督はそう6月を見据えた。

一方、湘南の曹貴裁監督は語っている。「いまは選手が自分たちで感じ、判断してやっている時間だと捉えている。選手たちが自ら感じてくれることが湘南のサッカーをもっともっとポジティブにしていくために大事だと思っている」。成長に期待する指揮官の胸中は、PKを阻まれた遠藤に対する言葉にも端的だ。「彼がこれから上に行くためにはプレッシャーのかかる場面でもきっちり入れられるようにならなければいけない。それを彼自身が感じていることが大事」。無得点に終わったのは今季初めてのことだ。その一方で、無失点ゲームは今季2度目、じつに9試合ぶりとなる。ゴールは奪えなかった。ただ、ピッチを後にした遠藤の、大野の忸怩たる思いは受け継がれ、総力によって無失点というかたちに結ばれた。

以上

2012.05.28 Reported by 隈元大吾