負けなくて良かった。ホームを松本サポーターに完全に乗っ取られた上に、クラブワースト連敗記録を更新してしまったとしたら、とてつもなく大きなダメージを受けるところだった。７連敗中だった草津は、ゲーム終盤に猛攻を仕掛けたものの決定力を欠きスコアレスドロー。黒星の連鎖は止まったが、勝利での連敗ストップを期待した草津側スタンドには煮え切らないムードが漂っていた。

草津の聖地であったはずの敷島が、松本の“ホーム”と化した。スタジアム開場と同時に正田スタアウェイ側バックスタンドへ流れ込んだ松本のサポーターは瞬く間にスタンドを埋め尽くした。緑のユニフォームをまとったサポーターは、バックスタンドのみならずメインスタンドの半分を占拠。ピッチの両サイドで連動した応援を繰り広げ、草津サポーターを圧倒した。

ゲームは、草津の応援が松本のコールによってかき消される中でのキックオフとなった。立ち上がりこそ草津が主導権を握ったが15分過ぎから松本のリズムへとすり替わっていく。松本は船山貴之、弦巻健人の２シャドーが、松下裕樹、熊林親吾へのパスコースを消して草津の攻撃を分断する。「ボランチをケアしておけば、手詰まりになっていくのは分かっていた」（船山貴之）。松本は中盤で優位に立つと、バイタルに次々と選手が飛び出し鋭いショートカウンターを浴びせていく。

草津は林勇介、遠藤敬輔を左右MFに配置し中盤の支配率を高めたかったが、玉林睦実、鐵戸裕史の両ワイドに高い位置を取られて効果半減。守備陣は、アグレッシブにゴールへ向かってくる松本の中盤を捕まえることができず、ラインが後退していく。前半のシュート数は草津の２本に対して松本は６本。草津は30分に林が決定機を迎えたが、シュートは枠を逸れて得点ならず。「前半耐えれば後半にチャンスがくると信じて守った」というGK北一真の好守もあり前半をスコアレスで折り返す。

負けられない草津は後半にギアを上げていく。運動量の落ちた松本のプレスをハズしてサイドへ展開。幅を使った攻撃で敵陣へ侵攻していく。そしてゲーム終盤には、チーム10点中６点をマークするヘベルチ、リンコンを投入。終了直前には彼らの超絶テクニックから林がシュート、そのこぼれ球を小林竜樹がヘッドで詰めたがサイドセットを揺らすに留まり試合終了となった。小林は「身長があと５センチ高かったら・・・。あれを決めて勝ちたかった」と振り返った。

サポーターの後押しを受けて　90分間をフルファイトした松本は、アウェイで勝点１を奪取した。反町監督は「消耗戦の中で、勝点３は取れなかったが勝点１を評価したい」と語った。得点力不足が今ゲームでも響く結果になったが、３―６―１の変則システムからアグレッシブなサッカーを展開していった。サポーターが正田スタで繰り広げたハイテンポな応援も素晴らしく、記者席から観ていてうらやましかった。アルウィンに行ってみたいと思うくらいのパフォーマンスだった。

草津は後半の攻撃に明るい兆しが見えたものの、８試合ぶりの勝利には届かなかった。チームの一部には連敗を止めた安堵感も漂っていたが、今節の結果で順位は20位まで後退した。アウェイ側バックスタンドをびっしりと埋めた松本に対して、かつて隆盛を誇った草津のバックスタンドは空席が目立った。J２・８シーズン目の草津が、今季J２へ昇格した松本から学ぶことは多い。松本は、チームとサポーターが一体となって試合を楽しんでいた。今季クラブ創立10周年を迎えた草津は、フロント、チーム、サポーターが一体となってJを目指した「原点」をもう一度思い出す必要があるだろう。

以上

2012.05.28 Reported by 伊藤寿学