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【J2:第15節 甲府 vs 草津】レポート:「分かれ道」(12.05.21)

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ホームの甲府が勝利した場合のみ行われるスタジアムに流すヒーローインタビュー。1階の記者室に降りようと思ってノートなどを片づけていたが、始まってしまったので降りずにスタンドの記者席から大型ビジョンを見ると映し出されたのは城福浩監督。ここでの言葉に物凄く注目していたわけではなかったが、アナウンサーに勝利について聞かれた城福監督は声を何度か震わせた。「サポーターが温かく見守ってくれた」、「ここから巻き返したい」、「一緒に戦いましょう」という言葉を伝えながら、感情の高まりを抑えきれなかった。城福監督の性格や感情表現の機微を詳しく知っているわけではないが、「ここまでの想いがあったのか」という感情。

眼が年を取ると物事を軽く見る才能が花開いてしまって、心の柔らかい部分がどんどん少なくなってしまう。城福監督の震えた声と試合後の高崎寛之の涙に自分自身の感じる感覚の硬直化を思い知らされた気分になった。城福監督の想いは、「結果に対して厳しく言われることは仕方がいないが、周りの空気が重苦しくなる中で選手たちが『クラブをよくしたい。高いステージでこのクラブの一員として戦いた』いという思いを見せてくれた。サポーターもいつもと変わらない応援をしてくれたけれど、今日は特別だと思った。『今日はこのサポーターに捧げる試合にしないといけない』と話して送り出した」だった。何度かの決定機があったものの決められなかった高崎は、「応援してくれるサポーターに応えられない歯がゆさがあった。(今日は)チームがよくなりつつある中で、上手くいかない自分がいてチームに迷惑を掛けているという思いがあった」と、ツートップを組むダヴィがゴールを量産する中でゴールという結果を積み重ねることができないことを、想像以上に重く背負い込んでいたのだろう。何となく後ろめたい気分にもなってしまうが、「貢献しているからゴールが少なくてもいい」と慰める気はない。(甲府に長くいてほしいが)甲府で大活躍してポケットが膨らんだG大阪や名古屋が欲しがるような選手になってほしい。だから、「5本シュートを打って決まらないなら10本打て」とエールを送りたい。

話を聞いた草津の選手全員が「前半は失点ゼロに抑えて後半で勝負したかった」という話をした。草津が点を取れなくても0―0で後半に入れば、時間とともに勝つしかない甲府に焦りが生まれて草津にチャンスが生まれるという狙い。御厨貴文は「割り切っていたから前半は攻められても問題なかった」と話したが、彼らにとって悔やまれるのは前半の最後の最後、45分に失点したこと。誰もがこの失点が痛かったと強調し、小林竜樹は「分かれ道」と表現した。甲府にとっても分かれ道だった。コーナーキック3連発目で、草津のディフェンダークリアしきれずに、結果的に擦らせたような感じでボールはファーに流れた。軌道の変わったボールに189センチの盛田剛平が神経に鞭打って反応し、ジャンプしてサッカー界の「エアーK」シュートを打つ。これがディフェンダーに当たってドウグラスの前にこぼれて来日初ゴールに繋がった。そして、ドウグラスは城福監督のもとに走り寄って喜びを爆発させた。初めての外国生活、生活習慣の違い、セオリーの違いがあるサッカーなど慣れて吸収しないといけないものが多い中で、結果が出ない中で更に大きなストレスを感じながら耐えてきた感情が監督のもとに走るという行動に繋がったのだろう。普段は甲府サポーターのチャントやコールを器用に真似して日本人選手を楽しませることもあるが、ここ何試合かでため込んでいた想いは大きかった。

草津は現実的なゲームプランで戦おうとしていたが、前半を冷静に振り返るとシュート数は2本と少ないが、その1〜2歩手前のチャンスはあった。ただ、シュートに繋がるパスの精度が悪かったし、相手のバイタルエリアでパスミスも少なくなかった。つまり、ミスで相手を助けるシーンが結構あったのだ。サッカーで「あのミスがなければ」、「あのシュートが決まっていれば」と言いだせばキリがないが、前半のシュート数を2本ではなく5〜6本にするだけのチャンスがあった。つまり、まだまだやれるチームだということ。先制されて0−1になった時に、0−2になるリスクを冒して1点を取りに行くという選択肢もあった。しかし、後半11分にダヴィにチャンピオンズリーグ決勝後半43分のドログバのヘディングシュートにちょっと似たゴールを決められてから、ようやく草津の「チクショー・エンジンン」に火が入った感じがした。結果論だが、ちょっと遅かった。

甲府が堀米勇輝とピンバと下げて、ボールの収まりどころがはっきりしなくなってバランスを崩した時間帯もあり、前掛かりになった草津の圧力はゴールの匂いを漂わせた。しかし、その時間はそう長くはなく、再び甲府が決定機を作り始めると草津の決定的なチャンスはアディショナルタイムの後藤涼のバックヘッドくらい。勝負すべき時間帯に勝負しきれなかったことを選手は悔やんでいるのではないだろうか。城福監督がヒーローインタビューで声を震わせながら「サポーターがずっと温かく見守ってくれた」と話しているとき、ゴール裏のサポーターに挨拶に行った草津の選手たちにサポーターからいろいろな声が飛んでいた。声が重なり過ぎていて言葉として聴くことができなかったが、サポーターそれぞれの想いが籠った叱咤と激励が入り混じっていたのだと思う。ここ数節の甲府のスタッフや選手が感じていた苦しさよりも更に痛いような苦しさを選手が感じているのならまだまだ共に戦えるはず。ここでチームの求心力を保てるかどうかが大事になる。こういう時こそ、悪い部分ばかり指摘しないで、よかった部分をちゃんと評価することが大切。

甲府は原点回帰で勝点3を5試合ぶりに獲得した。ホッとした思いもあるが、城福監督が「ベーシックなところはある程度表現できた。しかし、3点目、4点目を取れなかったという意味では満足していない」と話したように、テクニカルな部分を含めて修正点はある。ただ、苦しいトンネルを抜けたことを今節は評価し、課題を論うよりも勝点3を喜んでもいいだろう。上位追撃にはまだまだ勝点3を積み重ねないといけないことはみんなが認識しているからだ。長身の盛田をCBに入れ、J・テリー・山本英臣主将をボランチで起用する戦い方の可能性は広がるし、少なくとも次は今節以上に積極的に戦える。ベーシックな部分に立ち返ってもう一度積み上げるだけ。「雨降って地固まる」となったのか、ネガティブ感情を持っていた人たちとの友情を温め直す勝利だったのかは分らないが、多くの人が「次も一緒に戦おう」と思えたのなら尚素晴らしい。アウェイ2連戦を連勝し、ライバル・千葉をホームで迎撃しよう。

以上

2012.05.21 Reported by 松尾潤
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