組織で攻め、組織で守る。それが鹿島アントラーズの特長である。傑出した個人の能力に頼るのではなく、別々の個性を持った選手たちが、そのデコボコな能力を組み合わせ、戦う。その意味では、この試合で生まれた7つのゴールが、すべて別の選手によるスコアだったことは、理想の形と言えるだろう。リーグ戦でのクラブタイ記録となる7得点で鹿島が札幌に大勝した。
先手を奪ったことがすべての始まりだった。
ガンバ大阪に5−0と大勝したあとの3試合で、鹿島は1分2敗と失速。順位もジャンプアップさせていくどころか再び15位に逆戻りしていた。その最たる要因が、相手に先制点を許してしまっていたこと。清水、磐田、そして先のヤマザキナビスコカップ横浜FM戦でも、先制されたことで試合展開を難しくしていた。
特に、かつてのチームであれば、苦しい時間帯を迎えても、そこを耐え抜き、自分たちに流れが来るのを待つことができた。しかし、今季はそうした場面であっさりと失点。前からボールを奪いにいく姿勢が、逆効果を生んでいた。
ところが、この日は違っていた。ある程度のラインを保ちながら、しっかりと自陣で相手を待ち受けたのである。それでも試合開始直後、怪我人が続出したことから[3-4-2-1]に布陣を変更してきた札幌に主導権を握られ、ゴールへと迫られる。しかし、この日は曽ヶ端準を中心にしたディフェンス陣が集中力を保つ。相手の時間帯にも得点を許さず、小笠原満男のゲームコントロールで自分たちに流れを引き寄せた。
それが結実したのは意外に早かった。相手のパスをインターセプトした岩政大樹が、ボールを味方に預けるとそのままゴール前へ。右サイドの興梠慎三からクロスが送られると、岩政がヘディングでコースを変えて、待望の先制点を奪う。
決して簡単なゴールではなく、「あれくらいの気迫がFWにも欲しい」と遠藤康が驚嘆するほど。まさに岩政の気迫が生んだゴールだった。
15分には大迫勇也がPKで追加点。その後、前がかりになった札幌の反撃に遭うも、ここは曽ヶ端が好セーブを連発。あわやというシュートをすべて枠外へ弾き出し、水曜日のナビスコカップでの痛恨のミスを払拭する活躍を見せた。そして、40分には流れのなかから山村和也が嬉しいプロ初ゴールを叩き込む。
ジョルジーニョ監督が「センターバック2枚からの崩し」と喜んだとおり、岩政の若干アバウトな楔のパスを、ペナルティエリアで受けた大迫が丁寧に落とすと、そこに走り込んだ岩政が今度は優しく絶妙なパスを山村に流すアシストから生まれた得点だった。6本のシュートで3点を奪った鹿島が理想的な展開で前半を折り返す。
札幌としては、前線で起点となっていた前田俊介を前半のうちに負傷交代させなければいけなかったのが痛かった。さらに後半から内村圭宏を投入するも、大きく傾いていた試合展開を変えるのは難しかった。
61分には、ゴール右前に走り込んだ小笠原のヒールパスに合わせた遠藤がミドルシュート。キーパーが弾くも、そのこぼれ球を興梠が落ち着いたフェイントでシュートコースをつくり4点目。74分には、同じような形でゴール右前に走り込んだ興梠がヒールパス。ディフェンスだけでなくキーパーもつられていたため、パスを受けた本山雅志は無人のゴールに蹴るだけだった。さらに82分には小笠原のスルーパスに抜け出したジュニーニョが、移籍後リーグ戦初ゴールとなる得点を奪い6点目。最後、89分に遠藤が速攻の流れから7点目を奪い、大勝劇を締めくくった。
「正直、前の公式戦のあとに家に着いたときに娘が、『大好きなパパの笑顔はどこへ行ったの?』という問いかけを、家に入った直後にすぐ言われて、やっと笑顔を娘に見せられるのではないかな、という心境です」
このエピソードを披露したジョルジーニョ監督には満面の笑みが広がっていた。しかし、前回の大勝利のあとから、再び調子を崩してしまっただけに、同じ過ちを繰り返してはならない。表情を引き締める選手は意外なほど多かった。
対して、憤懣やるかたないという表情だったのが札幌のベテラン選手たち。大島秀夫、高木純平ら勝負の世界の厳しさを知る選手たちが「今日の試合は恥」と、怒りを露わにしていた。若い選手たちにとっては忘れようにも忘れられない試合となったことだろう。クラブワーストとなる7失点。百戦錬磨の石崎信弘監督も「今日のゲームをしっかり反省して、どう生かしていくかがポイントじゃないかと思います」と、この試合をしっかり受け止めることを選手たちに期待している様子だった。
以上
2012.05.20 Reported by 田中滋
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