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【J1:第12節 広島 vs 神戸】レポート:同点、逆転。さらに同点、逆転。至高のドラマに決着をつけたのは、熱さに満ちたストッパー。(12.05.20)

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アディショナルタイム、森脇良太は「ZONE」に入っていたのかもしれない。適度にリラックスしながら極限までに集中したスポーツ選手に訪れる至福の時。かつてプロ野球の名選手・川上哲治が「ボールが止まって見えた」、江夏豊が「投げるべきボールの軌道が白い道のように見えた」と語った。タイガー・ウッズやイチローなども体験した「ZONE」。この瞬間の森脇も、その境地に辿り着いていたのかもしれない。

青山敏弘にボールが入った時、ペナルティアーク近くまであがっていた紫のストッパーは、「オレに出せ、ボールよ来い」と念じていた。青山のボールは、その前にいた森崎浩司へ。それでも森脇は「来いっ」と強く強く、思い続けた。集中はここで極限に達した。
「ボールは、気持ちの強い方に転がる」
森脇の恩師・森山佳郎広島ユース監督の名言が、現実と化した。森崎浩と大屋翼の激突でこぼれたボールは、吸い寄せられるように森脇の足下へ。速いボールだが「完璧」と自身が言うファーストタッチでボールはピタリと止まった。
「シュートしか考えていなかった」。
森脇は言う。ところが、その視界にブロックに入る巨漢=イ グァンソンの姿が見えた。シュートだけが支配した脳裏に、次の「為すべきこと」がとっさに浮かぶ。
フェイントを入れた。勢い込んで前に出たイの身体はバランスを崩し、森脇の持ち出しについていけない。
「かわした後にどうするか、何も浮かんでいなかった」(森脇)
だが顔をあげた瞬間、彼の視界には、ゴールへと続く確かな道筋が、空間の中にはっきりと見えた。にわかには信じがたい、まるで超常現象。だが、「ZONE」状態に森脇が入っていたと仮定すれば、イをかわした落ち着きも、柔らかな足さばきも、打ったシュートの柔らかな軌道も、全て理解できる。その至福の瞬間は、「絶対に勝つんだ」と念じて走り続けた男に贈られたプレゼント。このゴールが、「THIS IS DORAMATIC」広島対神戸戦のクライマックスとなった。

12分、CKから水本裕貴が押し込み、先制した広島は、その後も決定機を積み重ねた。10本(広島)対4本(神戸)というシュート数がその前半戦を物語る。だが、ここで追加点を決められなかったのが、ドラマの序章。
後半、神戸・安達亮ヘッドコーチは森岡亮太をFWに投入。アグレッシブな姿勢が蘇った神戸のボール支配率はあがった。だが、「ボールはある程度、持たせてもいい」というのが、広島の選手たちの共通認識。ボールを持った神戸がチャンスをつくれず、広島はカウンターから決定機をつくった。だが、決められない。長い序章は、続いた。
67分、安達ヘッドコーチは田代有三を投入。「ボールを持たされている」状況を田代の高さと強さで打開したいという指揮官の想いが、76分に結実する。第2幕は、ここで開く。
左サイドで田代がキープ。広島がプレスに来るところを上手くファウルを誘った。FKだ。J屈指の精度を誇る野沢拓也のキックは、スピード、精度、ドライブの角度、全ての面で最高クラス。西川周作が一瞬、飛び込もうとするも、飛び込んできたイ グァンソンが気になり、躊躇してしまった。同点だ。

第2幕は急展開。81分、西川のゴールキックをイがヘッドで跳ね返す。そのこぼれを田代がヒールで落とす。野沢がスルーパス。走り込んだのは、2分前に投入された攻撃的ボランチ=田中英雄だ。長い距離を走った田中のアグレッシブさは広島を振り切り、フリーで横パス。森岡が飛び込む。ゲット。交代した3選手が全て絡む美しい崩しで逆転!!

だが、広島は諦めない。ピッチ上で叫ぶ森脇良太。ベンチに下がった佐藤寿人や山岸智が、大きな声で選手を叱咤激励する。前節、横浜FM戦では逆転されて下を向いていた選手たち。だがこの日の顔は、あがっていた。そして彼らは再び、走り始める。第3幕だ。

84分、森脇のパスを受けた高萩洋次郎が青山にパス。この時、北本久仁衛は高萩につり出され、イはフリーの青山にアタックにいった。絞っていた奥井諒は森崎浩司をマークせざるをえず、結果として石原直樹がフリーに。そこを青山は逃さない。「気持ちです、気持ち」(青山)。スルーパス。イの左足に当たったボールは狭い局面をすりぬけ、石原の足下へ。ストライカー、落ち着いて決めた。同点。そして広島ビッグアーチという舞台は最終章、森脇良太のゴールへとつながっていく。

「サッカーの怖さと喜びを味わった。本当にサッカーとは難しい」。試合後の森保一監督が厳しい表情で語った言葉だ。一方、この試合が最後の指揮となった安達コーチが見せた記者会見での晴れやかな表情。「やるべきことはやった」という誇りを感じさせた。

残り15分、体力が尽きそうな中で選手たちが見せつけた至高のドラマ。だがその余韻に浸る時間は、選手たちにはない。劇的な試合に酔うのか、それとも学ぶのか。広島も神戸も、選択すべき道は、決まっている。

以上

2012.05.20 Reported by 中野和也
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