共に勝利でリーグ戦につなげたいのは同じこと。さりとて、試合間隔や移動など、選手のコンディションには細心の注意を払わないといけないことも同じ。特に、アウェイの地に乗り込んできた磐田は、この試合に勝って、ヤマザキナビスコカップ決勝トーナメント進出をほぼ手中に収めたいところだったところだろう。しかし、それに『待った』をかけたのが、ＤＦ犬塚友輔だった。

磐田ユースの出身で、２００６年から２０１０年まで磐田で活躍した犬塚。大学時代には、トップ下を任されるなど、ユーティリティな選手でもある。
「プロに入って、得点を決めているのはミドルシュートが多いので不得意ではない」と話すだけに、この日の２本のシュートは、彼自身にとっては決めて当たり前のことだったのことかもしれない。
12分に、右サイドで磐田のボールを奪ったあとのこぼれ球を、「ゴールするために狙って出した」（ＦＷトジン／鳥栖）パスは、磐田ＤＦの裏でＧＫが飛び出せない絶妙の位置だった。このボールを呼び込んだのが、犬塚の攻撃的なセンスだった。
「スペースもあったし、トジンと目が合って」と飄々と振り返る犬塚だが、「あそこだったら打てるだろうな」（同）と感じて走り込んだ感覚は、彼の攻撃的なセンスならではのものだった。「ペナルティエリアに入った瞬間に“打とう”と決めた」（同）積極的な姿勢は、前半の鳥栖に勢いとスタンドのファンやサポーターのボルテージを一気に上げた。

そして、圧巻だったのは６５分のボレーシュートである。
ペナルティエリア内でトジンが放ったシュートを磐田ＤＦがクリアしたボールは、ペナルティエリアの外約２０ｍ地点に落ちた。ここに走り込んでいたのも犬塚だった。
「あのシュートはスーパーでしょう」とＪ１初ゴールを決めたＭＦ早坂良太が、自身のゴールシーンを聞かれたときに本題を逸れて話すほどの綺麗な弾道を描いての決勝点だった。
「早坂や犬塚といった新しい選手が入ってきていい活躍を見せてくれた」と尹晶煥監督が振り返るほど、この日の鳥栖は、新しい力と若い力が融合し、今後の鳥栖の活躍に期待を持たせる戦い方を見せてくれた。

鳥栖だけではない。
敗れはしたものの、磐田の森下仁志監督も「初めて出る選手もいた中で、前半はよく耐えて、後半は自信を持ってやってくれた」と内容には満足したようだ。確かに前半は鳥栖の早い出足に戸惑う部分も見られたが、後半に入るとポゼッションでは鳥栖を上回っていた。その要因は、磐田らしい流動性を持った攻撃が機能し、両サイドバックまでもが攻撃に参加するパワーだといえる。
特に途中出場したＭＦ山田大記は「鳥栖ＤＦを“ズラす”動き」（同）を心がけて、鳥栖の選手を押し込んでいった。山田は８８分には鋭いドリブルで持ち込んで、１点差まで詰め寄るシュートを決めたが、あと一歩が９０分間の中で届くことはなかった。

お互いに３９歳の若い指揮官同士の戦いは、終わってみると３−２の接戦だった。リーグ戦の間に行われるカップ戦だけに、前節のリーグ戦とは違うメンバー構成で臨んだ試合だったが、内容はリーグ戦で見せる戦い方を出し切った試合だったといえる。お互いに、「今後の選手起用に幅を持たせる」（尹晶煥監督／鳥栖）のは間違いないだろうし、「出し切ったからこそ感じてくれたものは大きいと思うし、これをプラスにして明日からのトレーニングに」（森下仁志監督／磐田）臨むことも間違いない。週末にはすぐに次節のリーグ戦が待っている。この試合の余韻に浸る暇はない。

点と点をつなぎ合わせていくと一つの形になる。意味なく打たれた点ならば、つなげたとしても人を感動させる形にはならない。目的を持って、意図ある点を打つことで、その点をつなぐ楽しさとつながった後の感動になるのである。
サッカーとて同じこと。決まったシュートだけを見たいならば、振り返りの映像を見るだけで良い。しかし、そこにはシュートというテクニックを見つけることはできても、ゴールという過程を見つけることはできない。
決まったシュートと同じ価値が、そこに至るまでのパスにも選手の動きにもある事を忘れてはいけない。
サッカーは、その瞬間だけを切り取っても本当の面白さを感じることはできない。
ボールと選手は常に動いているのだから…。

以上

2012.05.17 Reported by サカクラゲン