この試合は『現実路線』同士の戦いだった。現実路線とはどういうことか。誰もがサッカーを語るにあたって、パスがたくさん繋がって、完全に崩した形からシュートが決まる。現代で言えば、FCバルセロナのサッカーを理想とする人もいるだろう。
しかし、それぞれの現状、環境を鑑みたときに、この理想を追求できる者はごくわずかと言っていい。例えば育成年代であれば、ある程度のチャレンジが出来るが、もうプロとして成熟しているリーグの中では、やはり勝たなければ意味をなさなくなる。そうなると理想ばかり追いかけてはいられない。しっかりと守って、少ないチャンスをものにする。勝利から逆算して、その可能性をより高める現実的なサッカーを選択しなければいけないチームは存在する。
岐阜と松本はまさにそれだった。行徳浩二監督は昨年崩壊した守備の立て直しに着手し、守備をベースにチーム作りに取り組んだ。反町康治監督も一人一人の運動量とハードワークをベースに、少ないチャンスをものにしていくサッカーを植え付けている。
現実路線同士の対戦となったこの一戦。松本のサッカーは前半0-0でOKのサッカーだった。リスクを冒さず、守備の人数は余らせ、カウンターであわよくば得点を狙う。この姿勢に対し、岐阜は立ち上がりこそカウンターをケアするためにDFラインを低く保ったが、立ち上がりの均衡を守ると、徐々にラインを押し上げ、バイタルエリアに人数を掛けられるようになった。24分には左CKからFW井上平がバーに当たるヘッドを放つなど、チャンスは作った。
しかし、全体的な印象は『攻めさせられている』感じだった。さすが知将・反町康治監督というべきか。岐阜に対し、攻め込ませながらも攻撃のテンポだけは上げさせなかった。常に前線には1トップの塩沢勝吾、船山貴之と弦巻健人の2シャドーを置き、カウンターが出来る場面を創造し、岐阜をけん制し続けた。
0-0の中にも、『あわよくば1点』という意図はあった。そして、その意図は40分に結実した。カウンターを仕掛けると、右サイドを突破したDF玉林睦実のグラウンダーの折り返しを、弦巻が冷静にゴール左隅に突き刺した。
まさに一撃必殺。0-0でOKの前半が、1点のリードを奪うという理想的な展開で終わることが出来た。
後半、松本は1点を守るのではなく、よりアグレッシブに仕掛けてきた。53分には船山のスルーパスに塩沢が抜け出すが、放ったシュートはDFに阻まれる。60分にはMF鐡戸裕史のマイナスの折り返しから、船山が決定的なシュートを放つが、これはバーを直撃。65分にも塩沢が抜け出すが、シュートは僅かに枠をそれた。
ペースはいつの間にか完全に松本の手中に収まっていた。岐阜は井上に代えてFW中島康平を、MF廣田隆治に代えてFW佐藤洸一を投入し、高さとパワーの2トップに切り替えて攻撃のテコ入れを図るが、一度掴まれた流れを奪い返すまでには至らなかった。ピッチ全体にバランスよく選手を配置する松本の前に、どんどん攻撃の手数が減っていく岐阜。逆に82分には塩沢に決定機を作られるが、何とか身体を張って防いだ。
アウェイの戦いをしっかりとまっとうした松本と、それに対し有効的な打開策を見いだせなかった岐阜。「チャンスは作れている」と選手は語るが、サッカーはチャンスを作ってOKのスポーツではない。それをものにしてこそ、初めてそれが有効的なチャンスだったと言える。あくまで結果論だ。チャンスは作れているのに、チームの総得点がわずか6点では、それはチャンスとは言えない。決めてこそのチャンス。この現実をもう一度見つめ直さないといけない。現実路線対決は、松本のしたたかさを学んだ試合でもあった。
以上
2012.05.14 Reported by 安藤隆人
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