よくサッカーの試合では、シーソーのように試合の流れが両方のチームに傾く時間があると言われる。だからこそ、いかに流れを引き寄せる時間を長くするか、流れを掴んだときに得点するかが重要になる。この試合は、サッカーには珍しく横浜FCが流れを掴み続けることに成功した試合となった。
その最初のポイントは立ち上がり。山口素弘監督が「ゲームの入り方が重要だと選手には伝えたんですが、良い入り方は出来た」と振り返ったように、横浜FCは立ち上がりから2ラインの守備ブロックを作るスピードで相手を上回ることで、富山の組み立ての選択肢を狭めていく。富山がボールを繋ごうとするときのパスコースが限定される一方、苔口卓也、黒部光昭の2トップに入れるボールには、横浜FCのセンターバックの2人(堀之内聖、森本良)が冷静に対処し、富山に攻め手を与えなかった。富山の守備の場面では、横浜FCのツインタワー大久保哲哉と田原豊を警戒して横浜FCのポストプレーヤーに必ず2人のマーカーを付けるため、スライドする富山のサイドハーフが押し下げられる場面が多く、武岡優斗、高地系治、阿部巧といった横浜FCのサイドプレーヤーの躍動を許してしまう。そして、サイドを抑えられた富山は、ボランチのエリアでも横浜FCに主導権を握られて、対応が後手に回る。33分の横浜FCの1点目は、高地と中里崇宏のパス交換からフリーになった中里が狙い澄まして左足で決めたもの。中里自体のキックも素晴らしかったが、そこに至る中盤の制圧過程は素晴らしかった。
横浜FCが流れを掴み続けることができたもう1つの理由は、立ち上がりからの流れに変化を付ける力が富山に不足していたことであり、そこで横浜FCが手を緩めなかったことにある。富山はDFラインからビルドアップするのか、まずはトップに当てるのかという点が不明確になりがちで、DFラインから直接トップに当てるシーンが多くなったが、そこでの2列目のフォローがなく2トップが孤立する場面が目立った。富山は後半の立ち上がりから苔口に代えて関原凌河を投入、さらに55分に谷田悠介を投入し中盤をダイアモンドにするなど、トップと中盤の関係を作る試みをするが、中盤でのビルドアップが向上しない状況では、素早く整う横浜FCの守備ブロックを混乱させるに至らなかった。50分の高地のゴールは、まさに中盤の差を出たゴールであり、武岡の体を張ったキープから、中里が阿部のフリーランニングをおとりに利用してマークが浮いていた高地に入れるまでの流れは美しいゴールだった。そして、76分の佐藤謙介のゴールは変化を付けたフリーキックから直接決めたもの。流れを掴み続けた結果として横浜FCは3-0の圧勝劇をホーム・ニッパ球のサポーターに捧げることになった。
横浜FC、富山共に迫力のある2トップを擁するチームだが、この試合で差を生んだのは、2トップ+中盤の総合力。この日の横浜FCの3ゴールを全て中盤の選手が挙げたように、2トップの威力を利用しながら中盤の選手が得点に絡める形を作り出せるようになったのは、横浜FCの大きな成長と言って良い。そしてその原動力は、チーム全体での攻守に渡る細かな作業の積み重ねである。「ディフェンスラインだけでなく前線から良い追い方が出来ていた」(堀之内聖)という早い守備意識の高さ、そして「意欲的にボールを受けるということ。それだけではなくて、受け方を良くすること」と指揮官が振り返るように、前進する保持の質を高めてきたことの蓄積がうまくかみ合った結果と言える。横浜FCにとっては、1つの良い成功体験となる試合となった。今季2度目の2連勝。しかし、前回の2連勝の後、横浜FCはその勢いを続けられず連敗になった。山口監督は「前節の北九州戦はそこ(ボールの動かし方)がぼけた」と振り返ったように、プレーの質を維持し、高め続ける必要がある。次に続けられるかどうかが、本当の勝負になる。
富山にとっては、2トップ頼みの形に陥ってしまい、その形にプラスαできる部分の少なさが見えた試合となった。怪我人が多く、この試合は福田俊介が出場停止となり横浜FCの2トップへの対処に苦慮した面もあるが、2トップ以外のストロングポイントの置き方をいかに構築するかという点で大きな課題が残った試合となった。安間貴義監督は、「選手だけでなくフロント、サポーター、カターレに関わる人たちが1つの方向に向かってやるきっかけになれば」と、チーム方針の見直しも示唆しているが、攻守にわたって強みを少しでも増やしていくことが求められるだろう。
山口監督就任後の、これまでの試合の中ではベストの出来と言ってよいゲーム。90分間を制圧できた要因は、「前進する保持」というストロングポイントを積み重ねて自信を深めてきたこと。積み重ねることの大事さがピッチに現れた試合だった。
以上
2012.05.14 Reported by 松尾真一郎
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