３分間のアディショナルタイムの終わりを告げるホイッスルが鳴った瞬間、ピッチに立つ11人はうなだれ、そして、レベルファイブスタジアムを静寂が包んだ。結果は１−１のドロー。先制された苦しい試合を城後寿のゴールで追いついたものの、勝ち越しゴールは奪えず。第９節（４月２２日）の徳島戦以来、ホームゲームとしては３月２５日に行われた鳥取戦以来の勝利を目指した福岡だったが、またも勝利を手にすることができなかった。３試合連続ドロー（栃木戦は悪天候のため中断）は最悪という状態にはないが、Ｊ２優勝、Ｊ１昇格を目指すチームにとっては想定外の結果。しかも、ドローとは言え、立ち上がりの１５分を除けば、ほとんどの時間帯を山形にコントロールされ続けた内容が、福岡の現状を映し出す。いま福岡は破ることができない壁の前で立ちつくしている。

立ち上がりは福岡のリズム。ボールをポゼッションして山形を押し込む姿は、「今日こそは」という期待を抱かせるものだった。しかし、18分の山形の先制点で福岡は全く別のチームになった。覇気を失ったチームからは前へ進む勢いが消え、相手に対する寄せが遅くなっていく。それに乗じて山形が自分たちのリズムを刻みだす。決して難しいことをしているのではない。安全にところでボールをつなぎ、福岡のプレッシャーが甘くなると、ラインの裏へ向かってロングボールを供給。そこへ向かって、山崎雅人、秋葉勝、中島裕希の３人が入れ替わり、立ち替わりに飛び込んでくる。守ってはバランスの取れた３ラインを形成して福岡に隙を与えず。福岡がスピードに乗ろうとすると、高い位置から激しくプレッシャーをかけて攻撃の芽を摘んで行く。攻守に渡って後手を踏む福岡は何もすることができないままに時間を過ごした。ナイーブさを見せる福岡と、巧みにゲームをコントロールする山形。その差が時間とともに際立っていく。

それでも、「今まで我々がやってきたことをやろう。コンパクトに保ち、ハイプレスを仕掛け、ファーストディフェンダーに連動していこう」というハーフタイムの前田浩二監督の指示を受け、福岡は少しずつリズムを取り戻していく。そして膠着状態が続く中の53分、尾亦弘友希のロングスローからチャンスを作り、最後は城後がゴールへ流し込んで反撃態勢を整えたかに見えた。
しかし、ここでも際立ったのは山形のゲームコントロールの上手さだった。「福岡は１点のビハインドという状況だったので積極的に出てこられたが、選手各自が、どこが危ないのか、どこが起点になっているのかというところを把握して、それを上手く消し始めて、自分たちに流れを引き寄せた」（奥野僚右監督）。同点に追い付かれても、山形から慌てるそぶりは感じられない。確実に守り、しかし追加点のチャンスを演出しながらゲームを進める。後半はシュート数では福岡が上回ったが、同点以降、確実にゲームをコントロールしたのは山形だった。

ともに手にしたのは勝点１。しかし、その意味合いは大きく違う。
「相手に流れが行っている時の自分たちの戦い方が確実に出来ているんじゃないかなと思っている。結果的には勝点１ということになったが、自分たちにとっては、勝点１以上のものが感じられた試合」と話したのは奥野監督。ミックスゾーンに現れる選手も一様に充実した表情を見せた。特別なことをしているわけでも、何か特筆すべきプレーがあったわけでもない。しかし、90分を通してゲームの流れを読み、勝負所を抑える戦いぶりは、現時点で首位に立つにふさわしいものだった。

翻って、勝点２を落としたのは福岡。山形に比して、内容で大きく下回っていたわけでも、流れの中から崩される場面が多かったわけではない。しかし、細かなところで山形に後手を踏み、ゲームをコントロールされた。選手たちも「少しのところ」という言葉を口にする。それを引き出しているのが、主導権を握っていながら失点すると下を向いてしまうメンタル面の不安定さと、ディテールにこだわりきれない緻密さに欠ける点だ。失点シーンは、どこかで、誰かが細部にこだわれば防げたもの。失点シーン以外でも、不用意なプレーが散見された。戦い方の大筋に問題はない。いかにディテールにこだわれるか、そして、逆境にめげないメンタルの強さを持てるか。それが、福岡が浮上するために手に入れなければならないものだ。

以上

2012.05.14 Reported by 中倉一志