「前半はすごいよかった。前半で勝負を決められる試合だった。前半は1−1の内容じゃなかったと思うし、僕自身にも決められるチャンスはあった。最悪でも1−0で折り返していれば、後半はもう少し楽に戦えたと思う」
原口元気がそう語ったように、浦和としては前半に勝負を決めておきたかった。前半の内容だけで言えば、浦和は2、3点を奪っていてもおかしくなかったが、そこで決められなかったことが結果に響いた。「前半に同点に追いつくことができたのが、今日の勝点1という結果に大きな影響を与えた」と敵将の黒崎久志監督も振り返っている。
浦和はDFラインとボランチでゲームを組み立てながら攻めるといういつも通りの形で試合に入った。対する新潟もミシェウとブルーノ ロペスがパスコースを切りながらプレッシャーをかけ、後ろの8枚はブロックを作るという得意の形で迎え撃った。
ただ、新潟はブロックを築く位置が比較的高く、中盤の選手もただ待ち構えるだけでなく、できれば前に勢いを持ってボールを取ろうという姿勢が見られた。ブロックを作って跳ね返す得意の形を残しつつ、可能な限り反撃しやすい形を作りたいという戦い方だった。
しかし、それは浦和にとっては好都合な出方だ。前節の磐田のように人数をかけ、鋭さがあって連動性も高いハイプレスを仕掛けられると苦しむこともあるが、今の浦和の選手たちは中途半端なプレッシャーなら苦もなくかわせる度胸とコンビネーションがある。
浦和は得意のパスワークで新潟のプレスをかわし、「今日の試合はサイドのスペースが空くという情報を持っていた」(槙野智章)というスカウティングを生かしてサイドから攻めた。特に左サイドにボールが集まることが多く、先制点が生まれたのも左サイドの仕掛けからだった。11分、攻め上がった槙野がドリブルを仕掛けて折り返すと、GKが弾いたこぼれ球をマルシオ リシャルデスが押し込んだ。
29分にはロングスローのこぼれ球をブルーノ ロペスに叩き込まれて同点に追いつかれたが、浦和ペースの試合展開は変わらず。それだけに、何本か作ったチャンスをことごとく決められずに前半を1−1で折り返すことになったのは痛かった。
後半に入って新潟は守備を整備してきた。「うちのダブルボランチが10番(マルシオ)、8番(柏木陽介)をしっかりとマークし、1トップ(原口)には1人付いて、1人余るということをはっきりさせた」と黒崎監督。新潟はバイタルエリアに鍵をかけ、浦和の前線3人を徹底的に封じる戦い方を選択した。サイドは使われても中でやられなければいい、という割り切った考え方だった。ブロックのラインも下げ、後ろ向きにボールと敵を追いかけるシーンも少なくなったことで守備は安定。
そして、58分には菊地直哉を下げて三門雄大を投入したが、個人的には菊地の交代は驚きだった。菊地は中盤で守備をがんばりつつ、攻撃面では迫力を生み出す貴重な存在になっていたからだ。交代直前の時間帯でもゴール前に飛び込んで惜しい場面を作っていた。
ただ、黒崎監督の説明から交代の意図は浮かび上がってくる。「こちらから見るとマークがルーズになっていたので、それを修正する意味で三門をはっきりと付けるという対応をした」。
菊地はマークがルーズだったというよりも、どちらかと言えばパスコースを切る守備のやり方をしていたように見えた。とにかく攻撃の形を作らせないために人に付くという考え方ではなく、守りながらもカウンターでいい形を作りたいという姿勢でプレーしているように見えた。本人も「自分の手応えは悪くなかった。前にも出られていた。もちろん守備も大事だけど、攻撃にも人数をかけてやっていきたい」と語っている。
しかし、守備の安定化、リスク削減を第一に考えた場合には、菊地の戦い方が「マークがルーズ」に映っても不思議ではない。実際、交代で入った三門が守備のタスクを忠実にこなしたことで、浦和は前半に比べて苦戦を強いられるようになった側面はある。黒崎監督としては守備力を高めることを最優先させたかったのだろう。その後の展開でミシェウ、藤田征也と、守備よりも攻撃面で特徴を出していた選手を次々と交代させたことからも指揮官の優先順位が窺える。
黒崎監督は“まずは負けない”ということを念頭に置いて戦っていた。そういう意味では、鬼門の浦和戦で勝点1を取れたのは悪くない結果だろう。浦和としては、冒頭でも触れたように前半で勝負を決めておかないといけない試合だった。
以上
2012.05.13 Reported by 神谷正明
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