ブリスベンロアーの選手たちが、試合の終わった国立のピッチを頭の上で両手をクラップさせて一周する。それに応えてスタジアムが両手を鳴らす。試合は、F東京が国立で4−2でブリスベンロアーを圧倒し、決勝トーナメント進出を決めた。ブリスベンは決勝トーナメント進出の望みが絶たれた。ただし、長時間のフライトに耐えて南半球からやってきたAリーグ王者は、ただ敗者となって帰るわけではなかった。
「オーストラリアのフットボールは、これまでフィジカルでロングボールを主体としたダイレクトプレーをしてきた。それが、変わってきたということが今回の試合で分かってもらえたのでは」(ラド・ヴィドシッチ監督)
何よりも、その光景が物語る。オーストラリアのサッカーを変えるという気概に溢れ、最後まで自分たちのスタイルを貫き通した。
胸の中がスーッとする試合だった。オープニングアクトは、ホーム側のゴール裏が務めた。「シュート打て」「意地見せろ」と続けざまに連呼する。F東京側は、リーグ3連敗中に加え、2試合連続無得点試合が続いていた。ブリスベンも予選グループ最終戦に決勝トーナメント進出の望みを残すためには3点差以上の勝利が必要だった。加えてこの日は、アシスタントコーチとして7年間チームを支えてきた指揮官の初陣でもあった。だから、試合開始前からオープンな展開となる要素はふんだんにあった。
先制ゴールは4分。FKをFWベリシャが頭で合わせ、こぼれ球を押し込んでブリスベンが先行する。だが、東京は5分に、MF高橋秀人のミドルシュートですぐさま同点に追いつく。さらに、20分には自陣からMF長谷川アーリアジャスールが運んで右サイドへと展開する。ボールを受けたFW渡邉千真がグラウンダーのクロスで芝の上を滑らす。「それ何百回も言われましたよ」と笑う“持ってる男”がファーサイドに走り込んでくる。この日、「チームに勢いをもたらして欲しい」と指揮官が起用に踏み切ったDF椋原健太が、慎重にコースを狙って逆転ゴールを突き刺した。
ただし、前半はこれで終わらない。MFトーマスブロイヒが右サイドからゴール前へと飛び出して一度はDF森重真人に阻まれながらも、フィニッシュにつなげてゴールネットを揺らして再びゲームを振り出しに戻した。しかし、東京は前半終了間際に、渡邉が自ら獲得したPKを決めてリードを奪って試合を折り返した。
両チームが攻め倒したゲームは後半、運動量の落ちたブリスベンに対し、MF谷澤達也のスルーパスに抜け出した渡邉が再びネットに突き刺して試合を決めた。
ポポヴィッチ監督は、「FC東京ブランドを作りたい」「アジアに東京のフットボールを発信したい」と言い続けてきた。ヴィドシッチ監督もまた「オーストラリアのフットボールを変えたい」と言う。ゆるーくは過ごせないプロサッカー監督としての実情がある。それでも2人は、そのために「信じて貫き通すことが必要だ」と共通のプロセスを語った。
ACL初戦で興味深い出来事があった。ブリスベンは、愚直なまでに最終ラインからボールをつないだ。何度も東京のプレスにはまってボールを失う。それでも大きなリスクを冒してでもそれを続けた。ただし、前線からのプレスを掻い潜った瞬間は、ドッとスタジアムが沸いた。チームのスタイルに共感するサポーターはそれを楽しみに足を運んでいることが窺えた。だから、彼らも信じてそのスタイルを貫き通しているのだと思う。
以前、高橋に「チームが躍動しているときってどんなとき」と聞くと、「それ言わなくても分かるでしょ」と言った。
「僕たちが躍動していたら、スタンドからオーレの合唱が起こるでしょ」
この日もホームサイドのゴール裏から起こる掛け声に乗って選手は面白いようにパスをつないだ。ピッチの中に自分たちの信じた価値を投影させる。それに共感した人がスタジアムへと足を運ぶ。シンプルで分かりやすい。サッカーを楽しむことに、オーストラリアも、日本も変わりはない。F東京はラウンド16進出を決めた。まだまだアジアに自分たちのサッカーを発信できる機会は残っている。その前に、「オーレ」を叫びたい人たちは、今頃、まずはGWの最終日の旅程に思いを巡らせているはずだ。
以上
2012.05.03 Reported by 馬場康平
J’s GOALニュース
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