長く感じられたアディショナルタイムの4分が過ぎ、タイムアップのホイッスルが鳴ると愛媛の選手たちは次々とピッチの上に倒れこみ、そして抱き合い、勝利の喜びを噛み締めた。そして、サポーターはスタンディングオベーションで彼らを称えた。両チームの順位を考えれば、愛媛にとっては首位撃破の金星。しかし、愛媛の側に立って敢えていうならば、この勝利は期待通りのパフォーマンスを発揮しての結果だったと言っていいだろう。

ゲームの立ち上がりは、先に湘南がチャンスを迎えた。9分にはFW高山薫が最終ラインの裏を取ったが、GK秋元陽太が判断よく飛び出してセーブ。さらに19分にも、再び高山が愛媛の連係ミスを突いてゴールに迫ったが、これは素早く戻ったDF関根永悟が身を投げ出してシュートを阻んだ。
この流れが続けば、試合の結果はまったく違ったものになっただろう。しかし、愛媛の選手たちは慌てなかった。「早い攻守の切り替えだったり、パスをつないで相手の守備の穴を狙ってそこから効率よく攻めるということを、いかにゲームの時にピッチで体現できるか」とバルバリッチ監督は試合後に語ったが、時間の経過とともに愛媛の選手たちは首位・湘南を相手に自分たちのサッカーを表現。落ち着いてブロックを整え、湘南の縦への勢いを消すとボールポゼッションの時間を長くして徐々に試合の主導権を握った。

そして、待望の先制点が生まれたのが前半27分だった。セカンドボールをMF東浩史が奪い、中央を突破。FW有田光希へスルーパスを通し、愛媛が先制点を奪った。これで、試合は完全に愛媛のペースになった。
例えば28分のプレーが象徴的な1つの場面。愛媛は最終ラインでボールを回しながらくさびのパスを入れようとしたが、通らなかった。そこで、今度は湘南が攻撃を組み立て直そうと、最終ラインからボランチにボールを預けるが、そこへ猛然と前野貴徳がプレッシャーをかける。愛媛の素早い攻守の切り替えに対して、湘南は必然的に再びボールを下げざるを得ず、縦への勢いをそがれた。さらに湘南は横につないでボールの出しどころを探すが、愛媛は前線の4人がしっかりとスライドをして縦へのコースを消す。ここに、愛媛は田森大己が加わってプレッシャーを強め、さらにパスコースを消す。最終的には、出しどころに迷った湘南のDFから前野がボールを奪ったが、この瞬間に愛媛は相手陣内で5対5の数的同数の状態を作り出す。このショートカウンターは田森のミドルシュートで終わったが、相手が出しどころを失い、素早く攻撃に転じる流れは、これまでの試合でも愛媛が何度も作ってきた1つの形だった。

かと思えば、追加点はしっかりとパスをつないでからのサイド攻撃だった。37分、愛媛は自陣で奪ったボールを最終ラインでしっかりつなぐと、まずは左サイドへ運ぶ。それを落ちてきた有田に預けると、有田は一気に右サイドの関根へサイドチェンジ。一度はGKのクリアにあったものの、このプレーで得たスローインから赤井秀一がクロスを放り込み、最後は前野がヘディングで叩き込んだ。中央突破やポゼッション、サイド攻撃と多彩な形で湘南を圧倒した前半だったといえるだろう。
懸念されていた後半のゲーム運びに関しても、この試合に関しては68分にボランチ村上巧が2枚目のイエローカードでピッチを去ったことで、やるべきことが明確になった。「割り切って相手をサイドに出して、入れてきたボールを跳ね返すことを徹底できた」と田森は振り返ったが、最終的には湘南の反撃をセットプレーからの1点にとどめ、愛媛は今季初の連勝を成し遂げるとともにホーム無敗をキープした。

対する湘南は前節の水戸戦に続いての連敗。今回は愛媛のよさに飲み込まれてしまった形だが、試合後に曹貴裁監督が「苦しい時に我慢をして流れをこっちに持ってくるということ」と振り返ったところは1つの課題。今節も含め、11試合連続でゴールを重ねている得点力があるだけに、次節のホーム甲府戦（5/3＠BMWス）でも相手の時間をしっかり耐えて、ゴールを奪う戦い方が問われることになるだろう。

一方で愛媛は次節のアウェイ山形戦（5/3＠NDスタ）でも、やはりこれまでの戦いを続けるだけだ。村上が出場できないが、逆に出場停止明けのトミッチが戻ってくるし、ベンチにはアライールも怪我から帰ってきた。今節、途中から出場した大山俊輔や石井謙伍らも役割を果たしており、連戦を乗り切るメンバーはそろっている。首位のあとに２位・山形との対戦という厳しいカードではあるが、逆に高いモチベーションを保てる状況を前向きにとらえたい。そしてこの試合で深めた自信を胸に、上位陣を連破することで今後もJ2の順位争いをより面白いものにしてほしい。

以上

2012.05.01 Reported by 近藤義博