開幕から10試合目。蓄積する疲労が最初のピークを迎えるというこの時期から、中2日で4連戦というこれ以上ないタイトな日程が組まれている。持てる者と持たざる者を冷酷に振り分ける連戦の初戦、周辺のソメイヨシノが見頃を迎えているNDスタでは、3連勝で2位に浮上した山形と、7試合無敗の8位・栃木が対戦する。今節で勝利したチームが、連戦を駆け抜けるためのエンジンをまずは手にすることになる。
前節・北九州戦、山形は「暑さもあり、あまりいい入り方ではなかった」(秋葉勝)ものの、中島裕希のスピードを活かした突破を中心に起点をつくると徐々にペースを握り、20分に宮阪政樹が直接フリーキックで挙げた1点が決勝点となり、2試合続けての1-0勝利。追加点を奪えず、決定力に課題を残しているが、13本のシュートのほか、シュートにカウントされないクロスからの決定機も含めチャンスを量産した。開幕から5試合失点を続けていたチームは、山崎雅人のプレスバックなどハードワークが効果的に機能してきたことで、第6節以降の4試合で失点1と守備も安定してきている。開幕前から大小さまざまな壁に突き当たっているが、絡んだ糸をほぐしていくような、デリケートで粘り強い積み重ねが、山形の理想のスタイルへと向かわせている。
新加入の岡根直哉を除けば長期離脱している選手がなく、先発メンバーを固定して戦えていることで、チーム内の意思疎通の回路の構築・整理が進んでいる。その一方で、先発メンバーと控えメンバーの間での回路の共有が新たな課題となっている。前節の前には比嘉厚平を入れた場合を想定した戦術練習も行われたが、交代のカードが機能的になるように、また、疲労や怪我、出場停止で先発メンバーを入れ替えてもチームの総合力を落とさないための準備はまだ十分ではない。中2日の連戦を考えると、しばらくは実戦のなかでトライしていくしかない状況だが、11人に割って入る選手の台頭が今こそ求められている。
栃木は前節、岐阜を相手に1-1のドローに終わり、昨シーズンに記録した4連勝には届かなかったが、第3節から続く無敗は7に伸びた。ミス絡みで前半に失点を喫したものの、後半にサビアの2試合連続ゴールが生まれて同点に持ち込んでいる。松田浩監督が「勝点3を取れなかったのは非常に残念なんですけれども、選手たちは90分通して非常に良い姿勢を見せ続けてくれた」と選手をたたえたように、3連勝時とパフォーマンスが大きく違ったわけではない。8位とは言え、昇格圏内にいる山形までの勝点差は4。大混戦が続くなか、連戦は上位浮上の格好の機会だ。
柳川雅樹、大和田真史に加えて、前節は當間建文が欠場とディフェンスライン、特にセンターバックに負傷者が相次ぎ、本来はボランチのチャ ヨンファンを充てるなど応急措置的な対応をしている。だが、それを乗り越えて3連勝を含む7戦負けなしを続けているのは、チーム戦術が浸透していることの表れだろう。怪我から復帰したばかりだったパウリーニョの出場停止も、乗り越えられない壁ではない。攻守両面でバランスを重視し、棗佑喜が競って廣瀬浩二が裏へ抜ける2トップに任せリスクをかけないケースと、棗で収めボールを追い越す動きを連続させながらゴール前に人数をかけるケースを使い分けるスイッチが共有されている。菊岡拓朗のキックの精度はチャンスを大きく広げ、ここまで3得点を挙げているサビア投入も逃げ切りや追い上げの切り札になっている。また、栃木で特筆すべきは、相手を押し込んでからの攻撃。相手がゴール前に密集した状態でも、パスの出し手と受け手の関係でシュートチャンスまで持ち込めるスキルも、日の浅い新チームとは違う成熟度を感じさせる。
前節がそうだったように、山形は立ち上がりの主導権争いを制したい。そのためにも、棗へのロングボールに厳しく対応できるかどうかがひとつのカギになる。また、栃木のボランチ・菅和範はディフェンスラインのカバーリングに長けているが、逆にバイタルエリアは手薄になることが多い。ラインを押し下げたあとは、その手前のスペースもうまく使って攻撃を仕掛けたい。山形は4戦中3試合がホームで、次節のアウェイも味スタでの東京V戦。日程的にはこれ以上ない恵まれた条件で戦うことができる。「まだ順位を考える時期ではないし、終わってみて一番上に立てればいい。全勝するぐらいの気持ちでやらないと湘南にも追いつけない」。闘将・山崎雅人と同じ決意を胸に、選手たちはピッチに立つ。
以上
2012.04.26 Reported by 佐藤円
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