徳島の現状は、相当厳しい。7試合にわたって白星から遠ざかり、その間の得点が6節・岡山戦のPKによる1つだけという現実を考えると、そう言わざるを得ないだろう。さらに前節の福岡戦では上向きにあったはずの守備が乱れ大量4失点…。チームは抱え続けている攻撃の問題に加え、守備にも改善が急務の課題を発生させてしまった。
そして、そのような中で迎える今節に目を向けたなら、甲府相手であることがいっそう戦いの難度を引き上げる。なぜなら、まず甲府は展開しようとしているサッカーが確実にワンランク上のものであるから。特に攻撃は、シンプルに早く縦を突く形と細かなパスワーク、また空中戦と地上戦をも効果的に使い分けるバリエーションの豊富さ。組織として引き出しを多く備えた姿を見せているのである。加えて、甲府が持つ個の力もそう思わせる要素と言えよう。中でも得点ランクトップを走るダヴィとその相棒・高崎寛之の強さと速さは一段抜けたレベル。それゆえチームが過去2戦のように彼らへ依存し過ぎてしまうきらいはあるが、それでもその2人は勝負を決められる特別なピースであり、対応するDFに強烈な脅威を与えられる存在だ。
と、こうして客観的に甲府を見わたせば、戦前予想はどの角度からしても明らかに苦しい。徳島は優位を甲府に譲るしかない。
しかし、それはあくまで試合開始のホイッスルが鳴るまでの話。プロ同士が0-0の同スコアからゲームを始めるのだから、実際の勝負はどう転んでもおかしくないはずである。対するのが甲府であっても、徳島が勝利をもぎ取れる可能性は決してわずかなパーセンテージなどではないということだ。
ただし徳島が望む結果へ近付くためには不可欠なものがある。それは、ゲームを的確に読み取る戦況洞察と、相手の一瞬の緩みを逃さないしたたかさ─。やはり甲府相手に多くの決定機を創ることは難しい。ボールを支配される我慢の時間もきっと多くなるであろう。だが、甲府もまだ完成の域にまでは至っていない。事実、前節(8節・町田戦)では相手のショートコーナーを誰一人ケアしなかったため先制点を奪われるなど、ちょっとした緩みを不意にゲームの中で出してしまっているのである。となれば徳島にとってはそこが狙い目。抱える攻守両面の課題改善はもちろん大前提として、それを図りつつ確かな戦況洞察で甲府の見せる緩い一瞬を捉え、したたかにそれを得点へと結び付けられたならチームは久々の勝利に歩みを進められるだろう。いわゆるクレバーな戦い。それが徳島には欠かせないポイントと思われる。
そこでキーマンとして挙げたいのが今節攻撃的MFとしての先発が濃厚な衛藤裕と花井聖。豊かな経験を活かし相手のギャップへ入る有効な動きを披露している衛藤が、周囲に慣れてきたことで類い稀なるサッカーセンスを輝かせ始めた花井が、高い位置で突くべき一瞬を見付け、グサリそこに精度の高いプレーを差し込むことで徳島の進む道は拓けてくるに違いない。
もうすでに上位陣には大きく水をあけられてしまった。とは言えまだ桜前線が通り過ぎたばかりの4月。目の前の一戦一戦に持ち得る最大限の闘志と集中と執念を全員がぶつけ続ければ、徳島はまだまだ反攻を見せられるはず。「ここ3試合得点を挙げられず苦しいゲームが続いているけど、今は前を向いて戦うしかない」とキーマン衛藤は強い決意を聞かせてくれたが、選手たちが今節ホーム鳴門でどれほどの戦いの姿勢を見せてくれるのか大いに注目である。
そして最後に、今節におけるもうひとつの注目点として甲府を引いる城福浩監督のことがある。徳島県出身の名将がいよいよ地元に凱旋することとなるが、果たしてどのような形でホームのサポーターやファンの迎え入れを受けるのだろうか。こちらもゲーム同様見逃せない。
以上
2012.04.26 Reported by 松下英樹
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