湘南がこのまま独走するかどうは分らないが、第8節終了時点での2位・京都、3位・東京Vが今節負けたことで、4位タイだった甲府の引き分けに対するネガティブな思いは少し薄まった。相手の2倍のシュートを打ちながらも勝てないチームに不満を持つ人は少なくないだろうが、縦パスや裏を狙うパス、ミドルシュートの意識などポジティブな要素はちゃんとある。「悪くない」という表現しか使えないものの、「悪くないものは悪くないのだ」。立ち上がりから8分頃までは甲府が完全に主導権を取り、10番を背負う井澤惇はミドルシュートを2本打ってゴールに対する積極性をチームにもたらせようとした。(開始15分以内にゴールが決まれば流れを掴める…)なんて思っていたら、町田の左ウィングバック、津田和樹が猛烈にドリブルを仕掛け始め、急に甲府の選手が慌てだしたことで町田のアグレッシブな攻撃が華を咲かせる。9分の津田のミドルシュートは、「(Jリーグ初ゴールが)決まるかも…」と本人が見守っていると「パカーン」とバーに当たってノーゴール。ノートに津田のドリブルを褒めるメモを書いていると、歓声が起こったので顔を上げると勝又慶典が一番喜んでいるように見えたので「勝又?」って口で呟くと、「決めたのは下田光平みたい」と前に座っていたテレビ局の人が教えてくれた。どうやら町田は勝手にショートコーナーをやって先制しており、ピッチの選手同様、「やってはいけないミス」を記者席でもやってしまった。
立ち上がりが良かっただけに、ショックな失点だった。1点取られれば勝点3を取るには2点取らないといけない。失点後も甲府はイージーミスで追加点のチャンスを与えたが、町田もシュートミスで助けてくれた。相手のミスを自らのミスで助けるよくない展開。徐々に甲府の選手が落ち着き、逆襲を始めると19分に井澤がペナルティエリアで倒されてPK獲得。甲府の攻撃の改善に一番積極的な選手がチームを救った。PKはダヴィが決めて11分のミスが帳消しになった気分だったが、甲府のサイドハーフが町田の3−5−2のウィングバックへの対応に悩んだのか、その後も攻撃面では怖さをなかなか見せつけられなかった。柏好文は一定のパフォーマンスだったと言えるが、堀米勇輝はアタッキングサードで前に勝負するシーンが少なかったことが残念だった。堀米には清武みたいになってもらいたいのだ。
前半を1−1の痛み分けで終え、勝負の後半はお互いに交代カードで流れを引き寄せようとする。町田の1枚目(55分)は痛んだ勝又を下げる交代だったが2枚目(60分)はトップ下の庄司悦大、3枚目(73分)はビッグボス・平本一樹と前の選手ばかり。つまり、甲府が後半は主導権を取ったことでアルディレス監督は勝点1は持ち帰るという判断をしたということ。主導権を取った甲府は青木孝太を55分に投入、65分に崔誠根を投入するとシステムを4−3−3に変更。「4−4−2には拘ってはいない。今回は4−1−4−1よりも4−3−3に近い意図のスタートポジション。青木にはもっと前線にいてほしかった」(城福浩監督)ということだが、この形でも甲府は主導権を掴み続け、ダヴィ、井澤、片桐淳至(77分投入)、福田健介らの絡みからシュートチャンスを作っていった。しかし、なかなか決まらないことで記者席の後ろにあるファミリーシートに座る淑女の皆さんからは「お前が上がれよ」、「何で打たないんだよ〜」と鬼嫁、鬼叔母、鬼友にシステムチェンジする声を聞くことができた。確かに決められそうで決められないジリジリする時間が続いたが、90分に4分間をプラスしても甲府は2点目のゴールを決めることができずにタイムアップ。試合終了後は順位を心配したが、90分後には1位の椅子はだいぶん遠くなったが、2位の椅子は1試合で手に入る距離と分ってやや安心できた。昇格戦線異状なし。
町田は3−5−2でやれる目処がついたのかどうかは分らないが、前半8分から11分の流動的でアグレッシブな攻撃を見ていると下位にいるポテンシャルのチームでないことは明らか。勝てなくてもやり続ける信念や自信が生まれればもっと変わるはず。京都、東京V、湘南には第1クールで敗れているが、くれぐれも第2クールは勝って頂くことを祈念したい。「負けた試合でも捻じ伏せられたと感じる相手はいない。自分たちが曖昧なプレーをしてやられることが多かった。甲府戦では前に行く意思をドリブルで表現できた。プレスが上手いチーム相手だと、どこかで一人かわすドリブルをして勝負しないとプレスを掻い潜れない」と津田が言うように、町田はケガ人がある程度戻っている状態であればもっと相手を怯ませる時間を増やせるはず。今節で勝又が足首を痛めており次節(松本戦)が心配だが、昇格同期との戦いで結果を出してこその今日の勝点1。次節はホームなのでもっとアグレッシブに戦えるはず。
甲府の攻撃には課題があるが、CBの盛田剛平がベンチに入ったことで山本英臣を中盤で使うオプションもあるし、崔が中盤のレギュラー争いに加わってきそうだし、青木もコンディションを上げつつあり、ベンチの手数も増える。あとは、誰をどこで使うか、誰と組み合わせるかという決断と判断。城福監督は堀米に対してもどこに配置するのが彼のストロングポイントを最大限活かせるのか考えており、選手自身も自分が一番生きる道を考えアピールしなければならない。選手層が厚くなり競争が激しくなることで、起用の判断と決断は難しくなるが、甲府は今の課題を絶対に乗り越えることができる。それだけの選手と監督。ゴールデンウィークの4連戦は同じメンバー、同じシステムで戦うことはおそらく無理なので、新たにチャンスを与えられた選手の活躍や新たなポジション(配置)でのプレーぶりなど見所は多い。湘南はひとり走っているが、まだまだこれから。5月3日のアウェイ湘南戦、6日のホーム京都戦が楽しみだが、まずは次節のアウェイ徳島戦では集中して戦い決定機を増やし、ゴールを決めるだけ。
以上
2012.04.23 Reported by 松尾潤