もやもやとした思いを抱きながら90分の終わりを告げるホイッスルを聞いた。北九州は0−1でスコア上は惜敗。内容をみれば点差以上の力の差があった。ただこの後味の悪さは、負けたからではない。仮に後半のアディショナルタイムで1点をもぎ取って追いついたとしても、少なからぬもやもやが残っただろう。
試合後に行われる記者会見。北九州・三浦泰年監督は冒頭、「全体的にみて、選手ひとりひとりが相手に対して勇敢に立ち向かっていけなかった」と振り返った。
その言葉が、この試合の残した課題、あるいはもやもやとした後味の悪さを象徴している。北九州に圧倒的に不足していたのが「勇敢さ」だった。プレビューにも触れたが、個の力で差が出てくる部分を、北九州は、北九州らしい厳しい守備、積極的な攻撃で補う必要があった。
最終ラインの背後に狙いを定め少ないタッチ数でリズム良く繋ぐ山形に対して、北九州のアプローチは遅かった。気後れしていた、と言ってもいいかもしれない。球離れが良くミスの少ない相手からミスを誘い出したり、勢いを止めさせたりするには、局面で体を張る個の強さも、ゾーンディフェンスを敷くチーム戦術も選択肢となり、それらは選手の判断力も求められることにもなる。ただ、第一義的には、ボールホルダーに対するアプローチが甘くなってはならない。――つまり、この日の北九州は、残念ながら甘かった。
前半から主導権を握った山形は20分、ペナルティエリアの外、ちょうどペナルティアークラインの左端上で直接FKのチャンスを獲得。宮阪政樹が左に曲がる弾道でゴール左隅を突き、GK佐藤優也も反応してボールには触れたが、巧みなシュートが勝って先制点を決めた。この1点が北九州に与えたハートへの影響は小さくなく、「失点したあとチームとして弱気になって、相手に押し込まれる時間になった」と森村昂太。三浦監督も「失点が逆に相手へ勇敢さを付けさせてしまった」と悔やむ。
先制点後の山形は、クロスに萬代宏樹や山崎雅人が飛び込んだり、中島裕希がサイドから崩してゴールを狙うなど前線3選手を中心に波状攻撃を仕掛けていく。高い位置からのディフェンスも奏功。敵陣内でボールを奪うと、オーバーラップするサイドバックも絡んでスピード感のある攻撃を繰り広げた。「動き出し、連動の部分でいいプレーが随所に見られた」と奥野僚右監督。チャンスの量産に比すれば追加点がなかったことは今後への宿題とはなったが、第9節の早い時期で高い連動性を出して3連勝。山形にとっては大きなプラスになっただろう。
北九州は攻撃の積極性も多くは見られなかった。61分にゴール前の混戦を抜け出した竹内涼がループ気味にシュートを打ったり、80分に新井涼平が2選手に囲まれながらもドリブルで中央突破を図るなど、選手個人のレベルで見ていけば個々にはアグレッシブさもあったが、それがチーム全体のうねりにはならなかった。「バイタルを使えなかった。出し手に入ってほしいところに(受け手が)入らなかったり、その逆もあったり」(木村祐志)と、これまで示してきた高い連動性も消えていた。
こうやって書くと、北九州はディフェンス面でもオフェンス面でも極端に悪かったように受け取られてしまうかもしれないが、危惧することではない。今節で見えたのは、気後れが先立って、できるはずのプレーができなかったハートの弱さだ。試合後、やや弱気なコメントをする選手も見られたが、木村からは「(次戦まで)短い時間だけれど修正していければ」とポジティブな発言もあった。
次節も北九州の奥行きの問われる試合になる。敗戦を引きずらず、前を向いて次節に立ち向かえるよう、キャプテンの木村やベテラン選手らが若い選手を引っ張っていってほしい。
最後にひとつだけ謝っておきたい。プレビューで散々に雨だ風だと騒ぎ立てながら、実際には無風に近い晴天だった。本城は天候が集客にも直結することを私自身が重々理解しているところであり、申し開きの立つことではない。省みながら、筆をおくことにする。
以上
2012.04.23 Reported by 上田真之介