連勝は3で止まった。だが、負けない雰囲気が途切れなかったのは幸いだった。失点シーンを含めて致命的なミスが3度あっても負けなかったのだから。0−1から1−1に持ち込んだ試合運びからは成長を感じるが、その一方で栃木本来の姿がやや薄まってしまったのは大いに反省すべき点だろう。菊岡拓朗は言う。
「100%の物を出して初めて勝てる。(勝ち始めた頃の)最初の気持ちを忘れていたところがあった。全て出し切らないと。それを前半からやるべきだったし、出し切らないと良い試合はできない。(連勝中でも)本当に強いチームは厳しさを持ってやれる。まだ甘さがある」
例えば門を閉じる作業。栃木が志向する守備が出来ていれば、前半のように簡単にバイタルエリアにボールを入れられることはなかった。例えば状況判断。シンプルさを心掛けていれば、安易なボールロストの回数は減らせたはずだ。なぜ当たり前のことが当たり前にできなかったのか。菊岡が指摘したように、気の緩みがあったからに他ならない。緩慢なプレーが引き起こした失点が象徴的だ。再度、試合序盤から全力を出し切る大切さを確認する必要がある。さもなければ、せっかく作った勢いが絶たれてしまう。
栃木が岐阜の浅いラインの背後を効果的に使えば、岐阜も両サイドから早めにクロスを入れることで圧力を掛け、互いに主導権を握るために策を講じた。こしらえた決定機は栃木が上回るが、先制したのは栃木のミスに乗じた岐阜。44分、井上平の左足が待望のゴールを生む。
ビハインドを背負った栃木は、後半の頭にパウリーニョが登場。しかし、またしてもDFラインでの不用意なミスからリズムを掴めず、その影響からか55分の決定機を高木和正がフイに。時計の針が進むに連れ、焦りが見え隠れしたが、嫌な流れをジョーカーのサビアが断ち切った。68分、セットプレー崩れから前線に残っていた宇佐美宏和の右クロスを頭で合わせて試合を振り出しに戻す。逆転に向けて意気上がる栃木だったが、思うようにチャンスが生み出せず。堅守速攻に切り替えた岐阜も88分の絶好機を活かせなかった。
先行逃げ切りを果たせなかった岐阜だが、「1‐1という結果は次に繋がる結果」と行徳浩二監督が言えば、ベテランの服部年宏も「アウェイで我慢するところは我慢できた。少しずつ成長している」と手応えを口にした。勝ち切れなかったものの、初勝利を挙げた前節の勢いを持ち込み、2試合連続しての勝点獲得は今季初。「上位の栃木にしっかり戦えたことは自信になる」と、先制弾の井上は笑顔を見せた。攻撃面に課題も見られるが、「選手達はギリギリのところで失点をひとつに抑えてくれた」と行徳監督が褒め称えたように、GK多田大介を中心に気持ちのこもった守備で追加点を許さなかったのは好材料だ。岐阜は「若い選手が多いので伸びしろのあるチーム」(多田)。成功体験を積み重ねながら岐阜スタイルを確立していきたい。
栃木は次節2位・山形との大一番に挑む。松田浩監督は当初パウリーニョを先発復帰させる腹積もりだった。しかし、岐阜戦の退場によりプランは大幅に狂った。若きDFリーダー當間建文も負傷離脱し、再びチームは逆境に立たされている。思うに任せない事態が続くが、パウリーニョ不在で勝ち切れなかった昨季とは異なり、今季は闘将を欠いても勝点を取れている。ぶっつけ本番でも高いパフォーマンスを見せた宇佐美は、當間の穴をしっかり埋めてくれた。確かに慢心も垣間見られたが、不甲斐ない試合内容ではなかったのも救いだ。誰が出ても変わらず同じサッカーが出来るのが栃木の最大の強みであり、「堅守速攻が僕等のチームの形。0でゲームを進めていくことが大切になる」(菅和範)。岐阜戦では希薄だった部分を山形戦では可視化し、栃木スタイルを貫いて勝点3を持ち帰りたい。
以上
2012.04.23 Reported by 大塚秀毅