試合前から瑞穂競技場には強い風が吹いていた。3月下旬ながら気温は6.4℃と低く、新潟から来た取材陣も寒いとこぼすほど。この風と寒さを味方につけることで、新潟の黒崎久志監督は勝利へのプランを設計していた。温暖なオーストラリアから帰ってきた名古屋は寒さに慣れず、長距離移動でコンディションも上がっていないはず。ゆえに前半からラッシュをかけ、一気に勝負を決める。運良くキックオフ前のコイントスでも風上の陣を取れたことで、新潟のプラン遂行への条件は完璧に整っていた。
しかし勝ったのは名古屋だ。勝因はシンプルで、我慢し、決定機をものにしただけ。名古屋は水曜日にオーストラリアでAFCチャンピオンズリーグを戦い、木曜日に日本に帰ってきた。そこから2日間のリカバリートレーニングで調整し、この一戦に臨んでいる。さらにはダニルソンが出場停止処分を受けており、中村直志は負傷で欠場。中盤守備の担い手2人を欠いた上に代役の吉村圭司も負傷が発覚し、万全の状態ではなかった。藤本淳吾が出場できる状態にまで回復したことは朗報だったが、吉村とともに強行出場の感は否めない。手負いという表現を使わざるを得ない布陣に苦戦は想定内ともいえた。
新潟が勝負に出た前半は、その思惑通りに試合を支配した。運動量が上がらず緩慢な守備しか構築できない名古屋の隙を突き、ブルーノ・ロペスと平井将生を中心に次々とゴールに迫る。10分には平井が強烈なミドルシュートをバーに当て、26分にはブルーノ・ロペスのスルーパスにアラン・ミネイロが抜け出すもこれは名古屋DF田中隼磨がすんでのところでカバー。その1分後には平井の左サイド突破から最後は小谷野顕治がGKの逆を突くシュートを放ったが、楢崎正剛の超人的な反応の前に防がれた。強く吹く追い風はカウンターの速度を上げ、名古屋のクリアを押し戻して新潟にセカンドボールを渡し、新潟に加勢する。名古屋も22分に金崎夢生が抜け出しシュートをバーに当てるなど中盤以降は盛り返したが、支配率という面では新潟に持っていかれた。
迎えたハーフタイム、名古屋のストイコビッチ監督は「前半のことは忘れて、後半でしっかりと我々の色を出していこう」と選手に声をかけたというが、おそらくはもっと焚き付けるような言葉もかけたに違いない。新潟の黒崎監督は「名古屋は後半になったらコンディションがフィットしてくる」と予想していたが、それ以上に後半の名古屋は別人のようなパフォーマンスを披露したからだ。
後半開始のホイッスルが鳴ると、名古屋は激しいプレッシングに出た。前半はボールを追いかけるだけでボールホルダーへのアプローチが甘かったが、球際の激しさとボールの追い込み方の双方において十分な運動量を取り戻し、守備が機能し始める。面食らった新潟が後退すると、名古屋はさらにプレスを前方へと移行。すると最初のチャンスで先制点を獲得することに成功した。49分、新潟のクリアをケネディが阻み、DFライン裏にボールが転がったところに金崎が飛びこむ。ドリブルはカバーに入ったDFの足にかかったが、強引に前に出るとまたもボールは前方へ。最後はGKとの1対1を「キーパーをしっかりと見てシュートを打ちました」と冷静に流し込んだ。
一気に主導権を取り戻した名古屋の攻勢は続く。60分、またも前線での守備で奪い返したボールを金崎が絶妙のスルーパスを玉田に送るがこれはトラップミスでGKへ。63分には逆に玉田のスルーパスに金崎が抜け出し、折り返しに吉村が飛びこむもDFにクリアされた。劣勢を挽回すべく新潟は本間勲に代えて矢野貴章を投入し小谷野をボランチとする積極策に出たが、直後の64分にアラン・ミネイロのシュートのこぼれ球をフリーで受けたブルーノ・ロペスのループシュートは田中マルクス闘莉王に阻まれてしまう。そして次の名古屋の攻撃が追加点へつながることになるのだから、流れというものは恐ろしい。67分、玉田が左サイドをドリブルで突き進み、上げたクロスをケネディがDF2人に挟まれながらも悠々と頭で合わせ今季2得点目。試合終了間際には名古屋DFのミスパスをブルーノ・ロペスが落ち着いて決め新潟が1点差に詰め寄ったが、反撃と呼べるものにはならなかった。
決定機を得点にする名古屋とできない新潟、相手の猛攻を耐えきった名古屋と耐えきれなかった新潟。シュート数は新潟が名古屋を上回っており、チーム選手の試合後の言葉を見ても一目瞭然だが、勝者と敗者を分けたポイントは、実に対照的だった。決定力と忍耐力の賜物ともいえる内容だが、その能力を裏付けるのは前述したように戦術眼だ。ここで我慢しなければいけない、そのためにここでやられない、ここで決めきる、という判断は、覚悟とも言い換えることができるだろう。新潟の鈴木大輔は「割り切って自分らの前でやらせてるんだってぐらいの余裕があっても良かったのかもしれない」と振り返ったが、名古屋は余裕ではなく必死で押さえるべきポイントを押さえにいったのだ。前半の守備しかり、後半開始からのプレスしかり、そして2つの得点しかり。それは新潟の菊地直哉が悔やんだ、「落ち着く場所も作りながら、全体的に前半の感じでできれば」ということにもつながる。そういった部分を名古屋の守護神はこともなげにこう振り返る。「前半は我慢して後半は持ち味出せたんやから、それは狙いというか、理に適ったことじゃないですか」と。
リーグ連敗は何とか避けた名古屋だが、次週はまたACLでの中国遠征を挟む1週間に3試合の過密日程が待つ。関東(大宮)でのアウェイ戦から海外、そしてホームゲームという流れはこの1週間と同じ。だが開幕前から欠場が続いてきた小川佳純も戻ってきたことで、次はベンチを含め久々のベストメンバーが揃う可能性は大。今度は勝利からスタートし、3連勝といきたいところだ。
以上
2012.03.26 Reported by 今井雄一朗
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