その若者の想いは、キャンプの頃から、止めようがなかった。
「今年に、自分の人生を賭ける」
「僕らの台頭なくして、クラブの未来はない」
高校1年の頃にはホームシックにかかり、広島から実家の富山まで電話しては涙ぐむなど、プロに入っても抜けなかった少年っぽい甘さは、もはや微塵もない。強い気持ちを言葉に出すことで、大崎淳矢は自分を奮い立たせていた。仕掛けの鋭さ、スピード、そして得点感覚。高校1年から広島ユースのレギュラーを張り、3年の時にはヤマザキナビスコカップでゴールも決めたその才能を爆発させるためには、何が必要か。プロ入り後2年間の苦悶の中で、大崎はその「何か」を発見した。前節の清水戦、得点こそできなかったものの、質の高い動き出しで決定機を演出。「一番の手応えを感じた試合」と背番号25は瞳を輝かせる。
そしてもう一人、注目を集める若者が、広島にはいる。清水戦では17分間出場し、2009年の大崎以来となる「現役高校生によるJリーグ出場」を果たした広島ユースのエース・野津田岳人だ。背筋が伸びたボール保持姿勢が生む視野の広さに加え、左右に供給するパスの質も鋭い。「中田英寿2世」と書いたメディアもあったほどセンスと将来性が高く評価され、U-19日本代表でも活躍が期待されている逸材だ。昨年の高円宮杯チャンピオンシップでMVPを獲得したように大舞台にも強く、清水戦でも「あわやゴール」と予感を抱かせるFKを放つなど、強心臓ぶりを見せつけた。
第2節で負傷交代した石原直樹の回復が思わしくない現状もあり、明日の鹿島戦では大崎か野津田か、どちらかの起用が有力となった。だが、二人のうちどちらが先発するのか、それはわからない。主力組での練習時間はほぼ同じで、パフォーマンスも甲乙付けがたい。森保一監督は起用について具体名をあげることは避け「練習内容を検討し、ギリギリまで考えたい」と話すにとどまった。
ゲームをつくる、という観点で考えれば、MFとしてのバランスに優れている野津田のプレーが魅力的だ。一方で「点をとる」という部分では、ストライカーとしての才能が光る大崎に魅かれる。公式戦4得点(J1:2点、ナビスコカップ:1点、ACL:1点)を全て広島ビッグアーチで記録するなど、スタジアムとの相性もいい。
「(野津田)ガクが入れば、パスの起点がトップ下に(高萩洋次郎と共に)2つになる。(大崎)淳矢なら突破がある。どちらも清水戦でのプレーは良かったし、あとは鹿島という名前に負けないこと」と佐藤寿人は言う。また、かつて高校2年生でJ2に出場し、3年の時にはJ1でゴールを決めた経験を持つ高萩は「淳矢はドリブルできるし、早めにボールを渡してあげたい。ガクで気になるのは試合の入り方だけ。できるだけボールを触らせてあげて試合に入っていけば、問題はない。二人とも自分らしくやってくれれば」と広島ユースの後輩たちにエールを送る。
キャンプから熱い注目を浴びてきた若者二人、めぐってきた大きなチャンスをどう捉え、つかみとっていくか。しかも相手は、三大タイトル15冠を誇る王者・鹿島だ。新星たちにとって、これ以上のハードルは、存在しない。
その「王者」の2012年は、苦闘から始まっている。2007年以来の開幕連敗スタート。1994年セカンドステージ以来の単独最下位。1996年度のJリーグMVPであり、在籍4年間で4つのタイトルを鹿島にもたらしたヒーロー・ジョルジーニョ監督は、キャンプから取り組んでいたダイヤモンド型の中盤を第2節では伝統のボックス型に変更。増田誓志を45分で交代させるなどの刺激も、チームに注入した。
その成果がヤマザキナビスコカップ初戦の対神戸戦で見事に開花。2試合合計で17本のシュートしか打てなかったチームが、この試合だけで16本のシュートを放ち、リーグ2連勝と好調だった神戸を2−0というスコア以上の内容で圧倒。指揮官が「これぞ僕が見たい鹿島。スパイクの先までハートを込めてプレーしていた」と称賛するサッカーを見せた。「鹿島らしいサッカーはできていますね。守備も堅いしチャンスもつくれている」と水本裕貴も警戒心を強める。だが一方で、「昨年もホームで勝っているし、やりづらさはない」と自信を見せる。
広島らしい組織のサッカーで若者をサポートし、15冠王者に挑戦する広島。今日、芝生の上を激しく叩いた雨もやがてあがり、明日は晴れ間も見える予報となった。若者たちのために、舞台は整った。あとは力を爆発させるだけだ。
以上
2012.03.23 Reported by 中野和也
J’s GOALニュース
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