プレビューの最後に記したように、鳥取が昨年の再現をするのか、京都が負の記憶を払しょくするのかが注目された一戦は、くしくも同じ2-1というスコアで鳥取が勝利。昨年に続く京都相手のホーム初勝利、4戦目にしての今季初勝利をつかみ、町田に敗れてブーイングも飛び交った3日前とは対照的に、とりぎんバードスタジアムは大きな歓喜に沸いた。
町田戦から中2日の過密スケジュールながらも、鳥取は先発を変えてきた。右サイドバックに、同志社大卒のルーキーで、町田戦の交代出場でJデビューを飾ったばかりの三浦修を起用。ボランチの三浦旭人も今季初先発で送り込み、過去3試合でボランチだった実信憲明を2列目に上げて、それまでの4-4-2を4-2-3-1に変更した。
前日にフルコートではないピッチでの紅白戦で確認しただけ、ほとんどぶっつけ本番だったが、吉澤英生監督が試合後に明かしたプランは「ボールを奪ったら(4-2-3-1の「3」の)奥山(泰裕)、美尾(敦)、実信(憲明)がトップに絡み、人数をかけることで、京都に守備を意識させる」というもの。中盤を厚くしてボールの収まりどころを増やすことを第一歩として、京都のボールを奪われた後のプレッシャーを回避し、主導権を握る試合展開を狙った。
しかし、序盤にリズムをつかんだのは京都だった。安藤淳が「前半の早い時間帯は、向こうのプレッシャーをかいくぐることができて、バイタルエリアまで行くことができていた」と振り返ったように、狭いエリアで巧みにパスをつなぎつつ、鳥取を自陣に追い込んでいく。15分には宮吉拓実が際どいミドルシュートを放ち、そのまま押し気味に進めていくかに思われた。
だが、鳥取が早い段階で修正を施したことで、流れが変わった。京都のパスワークだけでなく、フリックオンなどで背後のスペースを突く動きも警戒していた鳥取のディフェンスラインは当初、引き気味に構えてボールに対応する守り方をしていた。しかし、「注意深く(試合に)入り過ぎていたけど、相手の足元にボールが入ったとき、もう少し厳しく(当たりに)いってもいいかな、という感じだった」(戸川健太)ため、裏を取られるリスクを恐れず、積極的に前に出て相手をつぶす対応を見せ始めたことで、少しずつ京都を自陣から追い出していく。
そこから攻撃のリズムも生まれ始め、多くのCKを得た鳥取は20分、美尾の右CKを戸川がヘッドで合わせたが、惜しくも左ポストに阻まれた。だが26分、再び右CKを、今度は三浦修が蹴ると、マークを振り切って完全にフリーとなった戸川がヘッドで合わせ、先制点を奪った。
京都は、このときのポジション争いでの接触プレーで倒れたDF秋本倫孝が、プレー続行不可能となって内野貴志と交代。苦しい状況で前半を終えたが、ハーフタイムの大木武監督の「うまくいかなくても続けること」という指示を受け、後半開始から反撃を試みた。しかし、その矢先の55分、大きなミスが出る。黄大城のパスがずれたことをきっかけに、鳥取にロングカウンターを許した。
ハーフウェーライン付近でボールを奪った鳥取は、一度は京都の帰陣の早さにスローダウンを余儀なくされたが、美尾のパスを受けた福井理人が、ドリブルでエリア内へ。「ゴールキーパーが滑ってくると思ったので、これしかないと思って浮かせた」というチップキックでのシュートは、狙い通りに京都GK水谷雄一を破り、DF染谷悠太のクリアも及ばずにネットを揺らした。
この得点に至る際のプレーで、鳥取の奥山を倒した京都MF中山博貴が警告を受け、前半の1枚目と合わせて退場。数的優位に立った鳥取は、その後も多くのチャンスを作ったが、決めることができない。逆に、10人となった後も中盤の人数を減らしただけで、2トップのままで戦う京都に反撃を許し、75分にはピンチを迎えたが、宮吉のシュートは左ポストに当たって難を逃れた。
ところが86分、交代出場の鶴見聡貴が不用意にボールを奪われるミスから、宮吉に今度は決められて1点差に。残り時間は十分にあり、その後もあわやというシーンを作られるなど、快勝ムードは一転したものの、何とか逃げ切った。
鳥取にとっては、起用法の変化が吉と出た格好になったが、それ以上の勝因と言えるのが、全員の献身的なプレー。吉澤監督が「(中2日の試合で)非常に選手が疲れている中、ハードワークしてくれて、ボールの出どころにプレッシャーにいけたことで、リズムが生まれた」と語った通り、粘り強く足を伸ばし、球際で譲らなかった守備や、攻めに転じた際も足を止めずにパスコースを作った忠実な動きが、京都との実力差を埋めた末の勝利だった。
以上
2012.03.21 Reported by 石倉利英
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