想いが形や結果につながった時、至福の喜びを感じる。日頃の努力が実を結んだ時には、実力が付きさらなるアップが望めるものだ。ヤマザキナビスコカップ予選リーグに臨んだ鳥栖は、勝利という結果を得てとても大きな“モノ”を手にすることができた。

リーグ戦から中２日ということもあり、尹晶煥監督は先発８人を入れ替えてきた。うち５人は、Ｊ１の鳥栖では初出場というフレッシュな陣容である。残り３人もリーグ戦では途中出場なので、多くの選手がＪ１での大舞台の初体験をしたと言えるだろう。
「初めはなかなかリズムに乗れなかった…」とは、ＦＷ野田隆之介のコメントである。正直な感想であろう。対する川崎Ｆも６人を入れ替えてきたが、「現時点での最強メンバー」（相馬直樹監督）で、「アウェイとはいえ勝つ」（同）つもりだった。確かに、前半はその言葉どおりの展開で試合は進んでいった。

川崎Ｆは、センターバックのジェシを中心として、ＤＦ陣が鳥栖の縦パスを確実に跳ね返し、中盤の選手がボールを拾うことで主導権を握っていた。ＭＦ稲本潤一と柴崎晃誠が起点となり、ＦＷレナトを中心に攻撃の形を作っていった。３１分には、左サイドに流れたレナトが起点となり、ＭＦ楠神順平を経由して右サイドからＦＷ小林悠がシュートを放つなど、先制点のチャンスは幾度か迎えることができた。しかし、前半で放ったシュートは６本。主導権を握られていた鳥栖は５本と、ボールポゼッションの割りにはシュートまでが遠かった。相馬直樹監督も「もっとボールを動かして、うちらしいサッカーをしないと…」と悔しさをにじませていた。

川崎Ｆの長短を織り交ぜたパスワークに時間の経過とともに慣れてきた鳥栖は、後半に入ると一気にそのフレッシュさを爆発させた。５３分にはケガから復帰し、この試合が今季の初出場となったＭＦ岡本知剛がＦＷ岡田翔平に縦パスを通すと一気に前線に駆け上がった。
「ボールを出して止まっている。出したら動こう」というハーフタイムの尹晶煥監督の指示を、忠実にプレーに表した。そして、岡田翔平も「連続性が大事。シュートで終わること」（同）の指示を忠実にプレーで表現した。岡本知剛から受けたボールを再度戻し、自身はゴール前に走り込んでその時のチャンスを待っていた。中央に折り返されたボールは、ＦＷトジンのアウトサイドパスで岡田翔平の前に落とされ、そのボールを豪快に蹴り込んで先制したのである。
ケガから復帰した岡本知剛、キャンプ途中に加入したトジン、新加入の岡田翔平と大きな“モノ”のうち、“者”が鳥栖に現われた瞬間でもあった。
その１２分後には、今季初出場となったＭＦ國吉貴博からのＤＦ裏へのパスに抜け出した、ＦＷ野田隆之介がうまくボールをコントロールして、２点目をあげることができた。ここでも、大きな“者”が出現した。大舞台を幾度となく経験しているベテランのセンターバック小林久晃は、「今日の勝利は自信につながるし、Ｊ１の中で十分に戦える・」とフレッシュな選手たちの活躍に目を細めていた。

「何がしかのタイトルを取る」（相馬直樹監督）と強い気持ちで臨んだ川崎Ｆも、７８分に途中出場のＦＷ矢島卓郎がＭＦ田坂祐介のクロスに飛び込んで１点は返したものの、鳥栖の「最後まであきらめずに最善を尽くす姿」（尹晶煥監督／鳥栖）に手痛い１敗を喫した。
お互いに放ったシュートは１３本ずつ。チャンスを確実に得点につなげた鳥栖が、強豪川崎Ｆに果敢に挑んでつかんだ勝利で、ここにも大きな“モノ”が出現した。それは、「Ｊ１でも、十分に戦えるとみんながつかんだ」（小林久晃／鳥栖）“もの”であり、ヤマザキナビスコカップだけでなく、今後のリーグ戦でも鳥栖らしく戦える“自信”である。

世には、「ビギナーズラック」と言われる偶然に近いおめでたいものがある。サッカーの世界でも、「ジャイアントキリング」と呼ばれる“大方の予想を裏切る”結果が出ることもある。しかし、１１人ずつで９０分間も１個のボールを追い続ける試合の中で、どれだけ“ラッキー”なことが起こりうるのだろうか。１年を通して戦う中で、何回も“ジャイアントキリング”ができるはずがない。最終の結果が出た時の順位が真の実力で、そこに至るまでの戦いで見せたプレーが全てである。
練習で出せないものは試合でも出せるはずがなく、日頃の努力が実を結ぶのが試合なのである。
サッカーは、一日にして完成できるものではない。

以上


2012.03.21 Reported by サカクラゲン