リーグ戦を２試合消化しただけのタイミングで、早くもヤマザキナビスコカップが開幕する。大宮はリーグ初戦を落としたものの、第２節は新潟に逆転勝ちして勝点３の８位。横浜FMは初戦を前年度リーグ王者の柏に引き分けたものの、第２節を落として勝点１の１５位に留まっている。まだ浮かれたり焦ったりする段階ではないが、ここまでの勝点がヤマザキナビスコカップの戦い方にも影響を与えそうだ。

今シーズンから樋口靖洋新監督が率いる横浜FMは、いまだ攻守において新スタイルを表現できていない。今必要なのは何より結果だろう。能力の高い選手がそろうだけに、一つの勝利で内容も飛躍的に良くなる力を持っている。このヤマザキナビスコカップを浮上のきっかけにしたいという思いは切実だろう。現に指揮官は「過密日程という感覚はない」と明言。ここまでリーグ戦を戦っている、ガチのベストメンバーで臨む構えだ。チームの要となっているボランチの小椋祥平が、右肩脱臼の影響で離脱の見込みなのは痛いところだが、開幕戦で殊勲の同点ヘッドを叩き込んだ谷口博之か、福岡からの新戦力・中町公祐がその穴を埋めるだろう。

キャンプでのさまざまなトラブルにより戦術浸透とコンビネーションの熟成が遅れていた大宮だが、リーグ第２節の勝利でまずは一息つけた。鈴木淳監督はヤマザキナビスコカップの目標を「まずはグループリーグ突破しないと何も始まらない」と語るが、リーグ戦も見据えてチームの底上げにつながる選手起用を試みる余裕はある。前日の非公開練習後、指揮官も「メンバーに関しては言えない」としながらも、「新潟戦に出たメンバーはフィジカルコンディション的に厳しい」と、実戦を通してレギュラー組の連携を深めるよりも、コンディションを優先した起用になりそうだ。
おそらくはリーグ戦のスタメンをベースに、江角浩司、渡部大輔、深谷友基、金澤慎、上田康太、橋本早十、長谷川悠辺りにチャンスが回ってくるだろう。特に新潟戦で、オリンピック最終予選の疲れの見える東慶悟に代えて上田を投入し、カルリーニョスをトップ下に上げた布陣が機能して逆転勝利しただけに、その形の可能性を探ってみたい。カルリーニョスと上田が共存できれば、大宮の攻撃力が数段上のレベルになるのは間違いないのだから。
また大宮にとっては、今後オリンピック絡みでU-23代表が離脱する期間があるのは、東はもちろん、チョ ヨンチョル、金英權らは大宮にとって替えの効かない選手だけに頭の痛い問題だ。指揮官はあくまで「彼らが本番でも選ばれる保証はないし、選ばれてから考えること」と素っ気ないが、彼らが不在のときの戦い方を準備しておくにこしたことはない。

こうしてチーム事情を推し量りながらスタメンを予想するというのも、カップ戦ならではの楽しみだ。加えて大宮の古株の選手たち（今ではあまり残っていないが……）にとって、対戦する樋口監督は２００８年の指揮官でもある。当時大宮は樋口監督の下、長らく続いた守備的なサッカーから攻撃サッカーへの転換を図り、前半戦は上位〜中位戦線に留まった。夏場に失速し、秋には残留争い、そして契約満了となったが、現在の攻撃的パスサッカーを掲げる大宮の礎となった一人である。その樋口監督が「個々の能力が高く、試合を決められる選手がそろう」(橋本)強豪を率いて乗り込んでくるのだ。樋口政権下で出場機会を与えられ成長した金澤は、「攻撃ではゴールの脇を取りに行くことを徹底された。横浜FMもそこをねらってくるだろうから気をつけたい。相手よりも勝ちたい気持ちを出して、みんなを乗せていくのが僕の役目だし、その姿を樋口さんに見せたい」と、恩師との対戦を楽しみにしている。

「自分の立場はわかっているし、少ないチャンスをものにしなければいけない。普段は試合に出られないメンバーが、どれだけ高い意識で準備して、ゲームでプレーできるか。それがチームの力になると思う」と、２０１０年に磐田でヤマザキナビスコカップを制した上田も気合十分でキックオフを心待ちにしている。チーム事情に加えて、旧指揮官との因縁、選手個々の意地やプライド、さまざまなものが入り交じるヤマザキナビスコカップが、いよいよ始まる。

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2012.03.19 Reported by 芥川和久