昨シーズンのJ1覇者・柏を倒し、2009年から続くホーム開幕戦の白星を4に伸ばした浦和。ホームゲーム通算400試合の節目に花を添え、試合後には槙野智章の発案で選手とサポーターが一緒になって凱歌を奏でて勝利に酔ったが、その余韻に浸る間もなく中2日でヤマザキナビスコカップ初戦の仙台戦を迎える。
開幕の広島戦では結果はもとよりパフォーマンスの質で彼我の差を示された。積み上げてきたもの、かけてきた時間の違いはわかっていても、衝撃は小さくなかった。「同じようなサッカーを目指す広島とやって結果も内容も出なくて、どうしてもチームのなかで、監督や僕も含めて自信を失っていた部分はあった」と槙野は振り返る。
それだけに、柏戦の勝利がもたらすものは小さくない。時間がかかると頭ではわかっていても、結果が出なければ精神的にも苦しくなるところだったが、白星を飾れたことで自信を持てる。「重要だったのは自分たちのサッカーを信じて戦うことだった。一つ勝つことで違ってくるし、今日の勝ちでブレずに進んでいける」。キャプテンの阿部勇樹はこの勝利の持つ重みを感じている。
柏戦では王者のストロングポイントを消すことに集中しながらも、同時に自分たちが築き上げようとしているスタイルの片鱗も覗かせることができた。特に最終ラインとボランチが絡む後方でのゲームメイクでは、日頃の訓練の成果が見られた。
ポゼッションの基本はつなごうとする局面において数的優位を作り出していくことだが、柏戦では相手の前線のプレッシャーのかけ方、その枚数に応じ、ボランチ2枚と3バックの中央の3人が流動的に動いて、相手のマークをはがして前にボールを運んだ。
その過程で生きたのが広島戦の経験だ。「広島戦を外から見ていて、青山や森崎がいい持ち出しをしていたので、あれが大事なのかなと思って自分でもやってみようと思った」。柏戦で3バックのセンターに抜擢された永田充は状況に応じてボールを前に運び、しばしば攻撃の第一歩を担った。広島戦後、山田直輝は「目指すサッカーに負けたことで、伸びしろを感じられたのは収穫だった」と語っていたが、まさに永田のプレーは痛みを成長の糧にできた好例だった。次は目指すスタイルのエッセンスを今後もコンスタントに出していくことが求められる。
仙台は堅守で知られるチームだ。昨シーズンはリーグで唯一の失点20台(25)。1試合平均でも唯一1点台を切る0.74という数字を残している。浦和は手倉森誠監督率いる仙台とこれまで4試合戦っているが、3分1敗と未勝利。しかも、2得点以上決めた試合は1つもない。さらにペトロヴィッチ体制の広島との戦績を見ると、1勝5分1敗と五分だが、やはり2得点以上決めた試合はない。
昨シーズンの仙台は自陣でブロックを築いて待ち構える形が安定していた。ただ、今シーズンの仙台は昨年よりも高い位置までボールを取りにくるという話を聞いていたが、横浜FM戦を見た限りでは確かにプレッシングにいくラインは高かった。2トップが敵陣深くまでセンターバックを追いかけ、後方の味方がその動きに連動して前で人をつかまえようとするシーンがたびたび見られた。チームとして高いところからプレッシャーをかけようとする意図があった。高い位置で取れれば、それだけカウンターで得点を取れるチャンスが増す。一方でプレスがかわされれば守備がグラつく危険性は増すが、仙台は開幕2連勝で失点はゼロ。うまくバランスを取って戦えているようだ。
後方からのビルドアップが今季の特徴である浦和としては、相手が前から奪いにきたところをかわして優位に立ちたい。柏戦のように3バックとボランチのコンビネーションが機能するところを見せてほしい。だが、仙台の手倉森監督は「広島」を消してきた実績があり、「新しい浦和」のやり方もスカウティングしているはずだ。浦和のビルドアップと仙台の守備の駆け引きは、この試合の注目ポイントになるかもしれない。
仙台の攻撃で一番の脅威となるのはやはり鋭いカウンター。スピードのある選手を生かした速攻はシンプルだが、効果的だ。浦和としては攻撃時のリスクマネジメントを怠らず、また仙台は被セットプレーからのカウンターも鋭いので、その部分のケアにも注意を払いたい。
リーグ戦から中2日という厳しいスケジュールで行われる今回の一戦。両チームともメンバーを入れ替えてくることは十分考えられる。選手層、戦術の共通理解度といったチームの総力が問われる戦いになる。
以上
2012.03.19 Reported by 神谷正明
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