端的に言えば、前半は松本、後半は北九州のゲームだった。
特に後半、主導権を握った北九州の猛攻は凄まじく、松本が浴びたシュートは実に10本。同点に追いつくのは“いつ”の状態――。北九州サポーターはそれを確信していたし、松本サポーターもその覚悟をしたに違いない。

しかし、松本は耐えた。最前線で労を惜しまぬチェイスでボールホルダーを執拗に追い、ペナルティーエリア内でのピンチも、守備陣が身体を張ってシュートを阻止した。決定的な場面を数多く迎えた北九州アタッカーも天を仰ぐしかなかった。

3−4−2−1のこれまで通りのフォーメーションで挑む松本に対し、北九州は開幕からの3−5−2ではなく、昨シーズンまで慣れ親しんできたトップ下を置く形の4−4−2だった。しかし、「キャンプ時から4バックと3バックをやってきた」と三浦泰年監督が語るとおり、フォーメーションは大きな問題ではなかった。トップ下として神出鬼没の動きを見せた木村祐志を中心に、竹内涼と常盤聡がリズム良くパスを繋いで、松本ゴールに襲い掛かった。

それでも前半に主導権を握ったのは松本だった。前節途中出場で期待に応える働きを見せたことでスタメン起用となった玉林睦実が、右サイドで上下動を繰り返して中央の好クロスを供給するなど得点の雰囲気が漂い、19分にはコーナーキックのチャンスから、「（自分への）マークがずれた」飯田真輝がドンピシャのヘディングで先制点を挙げる。そのまま1点リードした形で前半を折り返した。

しかし試合は当然このままで終わるはずもなく、後半は「ワンサイドゲーム」と反町康治監督も苦笑いを浮かべるほどの内容。ギアをトップへと上げた北九州が幾度となく松本ゴールへと襲いかかった。三浦監督も後半20分に池元友樹に代えて渡大生を、その5分後には端戸仁に代え林祐征を投入するなど2トップを入れ替える大胆なカードを切ることで、その燃え上がった炎を更に炎上させようと試みた。こうなると防戦一辺倒にならざるを得ない松本は局面で身体を張って守る厳しい展開を強いられたが、“一丸サッカー”で最後までゴールを割らせることなく、そのまま1−0で試合終了の笛の音を聴いた。

土曜日開催で、あいにくの小雨模様。また近辺の学校で卒業式が行われるなどの幾つかの理由は差し引いたとしても、前節（13,098人）に比べると4,471人という入場者数は寂しいものがあるが、こういう状況でもアルウィンに集まったサポーターへ最高のプレゼントとなったJリーグ初勝利だろう。三浦監督は試合後の記者会見において、「松本の『勝ちたい気持ち』が勝っていた。戦術的なもの、戦略的なもの、技術的なものよりもメンタルの差が勝負を分けた」と唸ったが、悔しい試合を経て、チームは精神面でも肉体面でも間違いなくタフになりつつある。

以上

2012.03.18 Reported by 多岐太宿