「我々の特色やメンタリティの強さが発揮できた良い試合だった」とストイコビッチ監督は語った。まさしくそれは名古屋の勝因であった。プレーをするのは選手、とはよく言われる台詞だが、清水をホームで迎え撃った名古屋は刻々と変わる状況に対応し、苦境を乗り切ってみせた。悪いなりにも試合を締めることができるのは強者の証。我慢を繰り返し、粘り強く戦った名古屋がまずは勝点3から新たなシーズンをスタートさせた。
3日前のAFCチャンピオンズリーグからシーズンを開幕させた名古屋は、その時のメンバーと布陣をそのままリーグ開幕戦にも選択した。基本フォーメーションは4-3-3だが、前線の玉田圭司と藤本淳吾、金崎夢生はキックオフ直後からポジションチェンジを繰り返し、選手の並びは4-2-3-1とも取れる流動的なものとなった。また中盤でスタメン起用された生え抜き最年長のMF中村直志はこの日の出場でJ1リーグ戦通算300試合出場を達成。試合前のゴール裏席には「LEGEND OF NAGOYA」の横断幕が掲げられ、サポーターたちは12年目にして大台に乗せたチームの旗頭を祝福した。
アウェイでの開幕となった清水は戦前の予想を覆す11人が開幕戦のピッチに並んだ。主将の小野伸二と日本代表GK山本海人、そしてアンカーを務めるかと思われていた姜成浩がベンチスタート。守護神の座にはベルギー帰りの大器・林彰洋が座り、アンカーには村松大輔が、司令塔には大卒ルーキーの河井陽介が抜擢された。他にも両サイドバックには今季加入した吉田豊と李記帝が起用されており、清水はスタメンに4名の新加入選手が含まれるというフレッシュな顔ぶれとなった。
試合を通して主導権を握ったのはアウェイの清水だ。序盤から名古屋のDFラインと中盤に狙いを絞った積極的な守備で、相手に十分なビルドアップを許さない。ゴトビ監督は事あるごとにタッチライン際で「前へ出ろ」というジェスチャーを繰り返し、名古屋の分厚いサイド攻撃の構築を封じにかかった。名古屋は「玉田をトップ下に置くことでエスパルスのスタイルを無効化」しようと4-2-3-1に布陣を変えても効果は上がらず。ならばとロングボールで裏のスペースやケネディの頭を起点にしようとしたが、そう仕向けているのは清水であり、走る金崎や藤本の目の前でことごとくパスはカットされた。いくつか抜けたパスに対しては、GK林がアグレッシブな飛び出しでクリアし事なきを得るなど連動感も良い。ハーフタイムにはゴトビ監督が「ファンタスティックだ」と評していたが、それは間違いなく守備の出来が最大の要因だったはずだ。
しかし、若い清水が見せた一瞬の隙を、名古屋は見逃さなかった。30分、後方からのフィードに抜け出したアレックスのシュートが楢崎正剛に止められ、名古屋の攻撃が始まる。左サイドで展開し、阿部翔平がDF3人の間を抜くスルーパスを送ると、一度は林が跳ね返したルーズボールに再び阿部が反応。DFに倒されPKを獲得したのだ。「半信半疑でしたけど」という阿部にとっては、ACLでの失点につながるミスを取り返す価値あるプレーとなった。PKキッカーは3日前にも冷静にPKを沈めているケネディ。巧みなフェイントで林の逆を突き、今季1得点目を早くも手に入れた。
名古屋の見せ場はここまでだ。先制以降は清水がさらなる攻勢を強めた上に、度重なるアクシデントが名古屋の劣勢を加速させた。まずは前半限りで玉田が負傷の悪化を理由に交代を申し出、代わりに永井謙佑がピッチに送り出された。続いて後半開始6分で藤本が負傷退場。磯村亮太が代役に選ばれ、彼の特性とピッチ内のメンバーの特徴を鑑みて4-3-3へと布陣を戻したが、26分には中村までもが負傷してしまった。ストイコビッチ監督はダニエルを投入し、フォーメーションを今度はテスト中の3-4-3に移行。「エスパルスがロングボールで来ると思った」ことへの対抗策だった。
手負いの名古屋に対し、清水は猛攻を仕掛けるも決定打が出ない。後半開始から小野を入れ、73分には高卒ルーキーの白崎凌兵をデビューさせるなどしたが、いかんせんゴール前での迫力に欠けた。両サイドバックのオーバーラップとクロス、大前元紀の突破力などチャンスメイクまでは進むものの、最終的なフィニッシャーの顔が見えてこない。「我々はチャンスを作れたし、意図するスピードというものはワールドクラスだった。しかし決定的な場面での質が欠けていた」とゴトビ監督は振り返ったが、後半のシュート数3本という数字を見れば、それも頷けるというもの。名古屋が前半4本のシュートで1点を奪い、後半1本のシュートしか打てなかったにも関わらず、試合に勝つことができたのとは実に対照的だった。
自ら動いて3つのフォーメーションを操ったACLと、突発的な状況の変化に対応して同様の布陣変更を強いられた今回の試合。どちらにしても、名古屋は指揮官の言う通り、「我々はどんなシステムでも適合できる能力を持っている」ことで勝点を手にすることができた。昨季の特に終盤のように、試合を自分たちのリズムにしてしまう強さはまだ見せられていないが、手練手管を駆使して劣勢に負けないサッカーを見せていることは特筆すべきことだ。勝点1で優勝を逃した昨季、序盤で落とした勝点を悔やむ声は多かった。コンディションと戦術整備のどちらもがまだピークに遠いことは明らかないま、粘り強く勝点を拾っていくことは最終結果への影響を考える上でも重要だ。
最終結果という点では清水も良い展望が描ける材料は発見できている。二人の新人をデビューさせ、昨季と入れ替わった両サイドバックが好プレーを連発した。前述したフィニッシャー不在という点についても、伊藤翔、高原直泰という本職のストライカーが戻ってくれば、一気に解消する可能性はある。若く経験が少ない反面、伸びしろは十分。「これから将来のことを考えると、私は興奮してしまいます」というゴトビ監督の言葉は敗戦を取り繕うものではなく、本音という方が正しい。
結果として名古屋は幸先よく2012年リーグ戦の第一歩を踏み出した。これから長く険しい王座奪還への道をどのように歩んでいくのか、挑戦者となった妖精率いる“アカイ”軍団の、今後の戦いに期待したい。
以上
2012.03.11 Reported by 今井雄一朗
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