札幌ドームに詰めかけた観衆は25,353人。3万9千人以上を集めた昨シーズンのJ2最終節には及ばないものの、4シーズンぶりにJ1の舞台に立つ地元クラブを応援しようと、数多くのファンがスタジアムに足を運んだ。もちろん、アウェイの磐田のサポーターも多数、スタンドを埋めていた。
対照的なオフェンスをするチーム同士の対戦だった。
磐田はとにかく丁寧に攻撃を組み立てていくスタイル。マイボールになるとセンターバックの藤田義明を起点にサイドバックを絡めながらビルドアップ。小林裕紀、山本康裕という守備的MFを経由させ、斜めのパスを織り交ぜながら徐々にスピードアップ。サイドで手詰まりになると、再び守備的MFに戻して逆サイドに展開し、相手守備にギャップを作りながらロジカルに攻撃を作っていく。39分過ぎにはGK川口能活も加わってのビルドアップから正確にボールを運んでシュートまで持ち込むという、見事な攻撃を見せている。森下仁志監督が「選手には『素晴らしいゲームだった』と伝えた」と試合後の会見で話していたが、その言葉通り、プレーの質は高かった。
対する札幌の攻撃は、最終ラインからのビルドアップこそ未成熟だが、前線の選手たちが見せるアイデア溢れるプレーには見応えがあった。1トップの前田俊介をはじめ2列目に並ぶ岡本賢明、内村圭宏、近藤祐介は、組織的に動くというよりも、どちらかと言うとそれぞれのフィーリングを武器に攻め込むアタッカーたち。彼らは比較的自由にポジションを取るためバランスの良い攻撃とは言えないが、勢いはある。そんな攻撃陣を河合竜二、山本真希の守備的MFがコントロールする攻撃は、磐田のそれとはまったくタイプは異なるもののパワーは充分。それぞれの感覚が重なれば、強力なオフェンスになりそうな予感もある。前田から内村への突然のスルーパスや、岡本、近藤が自由に内側へ進出するプレーは、予測が難しい。磐田の守備陣が困惑する場面も目に付いた。
試合展開としては、立ち上がりこそ地元の声援を受けた札幌が攻勢をかけるが、時間が経つにつれてプレーの精度で上回る磐田が優位に立っていく。しかし、札幌もそれを跳ね返すだけでなく、高い位置からのショートカウンターで応戦。双方のスタイルがしっかりと表現された、好ゲームが展開されていったのだ。
後半に入ると、両監督のベンチワークがそこに加わる。
まず磐田がトップ下にペク ソンドンを投入すると、この選手が巧みなボールコントロールで攻撃を牽引。パスワーク中心の攻撃に、ドリブルというアクセントを加えたのである。
それに対して札幌も内村に変えてキリノを投入。試合を通して相手のセンターバック、チョ ビョングクの強さにシャットアウトされる場面が目立っていたが、パワーのあるキリノを入れたことでフィジカル面で互角に戦えるようになっていった。
そうして0−0のスコアで終盤に突入しながらも、どちらも守りに入ることなく最後まで勝点3を目指して得点を奪いにいった展開は非常にスリリングなものだった。どちらが得点しても不思議ではない展開が最後まで続き、息をのむ展開は続いた。
そしてタイムアップ。スタンドを大きく沸かせるゴールシーンこそなかったものの、お互いのスタイルが表現されれた、非常に見応えのある90分間だったと思う。タイムアップの瞬間には、勝てなかった悔しさと、負けなかった安堵感が入り混じった雰囲気が札幌ドーム内にはあったように感じる。
そう、これがリーグ戦の醍醐味だ。掴み取った勝点1を、どのように捉えるか。スタジアムを出るときにはネガティブだった感情が、帰宅途中にはポジティブなものになってみたり。またはその逆があったり。そうした感情の起伏を毎週のように楽しめるリーグ戦が、今年も始まった。
以上
2012.03.11 Reported by 斉藤宏則
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