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暖かくなったかと思えば、冬が戻ってきたような冷たい風が吹く。それを繰り返しながら、雁の巣球技場に確実に春の気配が近づいてくる。アビスパ福岡の17年目の春。それは、これまでがそうであったように、希望とともにやって来る。昨年味わされた悔しさや情けなさを忘れたわけではない。けれど、いつも春は、新たな未来へ向かう勇気と力を与えてくれる。
そんな春の訪れを感じながら、雁の巣球技場では選手たちがボールを追う。目標は「Ｊ２で優勝して、Ｊ１に昇格する」こと。監督を始めスタッフを総入れ替えし、新たに10人の選手を迎えて、新生・福岡は2012年シーズンに挑む。
「全攻切守」。それが前田浩二新監督が掲げるサッカーのスタイルだ。特定の誰かに頼るのではなく、全員で攻め、全員で切り替えて、そして全員で守る。ピッチに立つ11人が、そしてベンチ入りのメンバー、ベンチに入れなかったメンバーも含め、26人全員が高度に連携することで成り立つ組織的なサッカーの構築を目指す。「時間はかかると思うが、勝つためには基礎が大事だと考えている。チーム全体で、しっかりとした全員攻撃、全員守備を徹底したい」（前田監督）とは、１月17日に行われた新体制発表会見での前田監督の言葉。その言葉通り、福岡は全員でコツコツと積み重ねてきた。開幕までの１カ月半が、あっという間に過ぎ去ったのはチームが充実した日々を過ごしてきた証拠でもある。
その結果として、チームにはいくつかの変化が見えている。
そのひとつが組織的な守備への変更。３ラインをコンパクトに保ち、守備ゾーン全体を動かすことで相手を追い込んで意図的にボールを奪う形に変わってきた。二つ目はボールを簡単に蹴らなくなったこと。堤俊輔、古賀正紘ら、足下の技術の高い選手が最終ラインに加わったことで、低い位置からボールをつないでゴールを目指すスタイルに変わった。この変化が、成岡翔、高橋泰、そして新加入の坂田大輔の持ち味を引き出すことにつながっている。そして、最大の変化はチームの一体感にある。「すべての行動の規範は『勝つために何をなすべきか』にある」と話す前田監督の下、全員が意見をぶつけ合い、ひとつの目標に向かって進んでいる姿が印象的だ。昨年の悔しい思い、出場機会を求める強い気持ち、それぞれが持つ様々な想いが、ひとつの糸で結ばれ、それが大きな力となってチームを引っ張っている。
そして３月４日。福岡は新しい姿でレベルファイブスタジアムに熊本を迎えて、2012シーズンの幕を開ける。改めて21のライバルチームを見てみると、過去がそうであったように、今シーズンもＪ２は難しい戦いであることが分かる。簡単に勝てる相手はどこにもいない。ましてや、６位以上に昇格に向けてのプレイオフへの出場権が与えられることになった今シーズンは、どのチームにも最後までチャンスが残されており、例年以上に熱い戦いが増えることは明らかだ。
その中での戦いは、思うように行く時もあれば、思い描いた結果を手に入れられない時もあるだろう。その繰り返しの中で、最後まで目標を見失わず、自分たちを変えるという強い気持ちを持ち続け、そして、目の前の試合での勝利にこだわり続けることが、掲げた目標を現実のものにするためには欠かせない。
それは26人の選手たちだけに求められているのではない。監督をはじめとする現場スタッフはもちろんのこと、クラブ職員、ファン・サポーター、メディア、そして福岡に関わる全ての人たちが同じ想いで戦わなければならない。過去の延長線上ではなく、生まれ変わるという意志と、どんな時も前へ進む勇気と、Ｊ１でプレーするという想いを１年間に渡って持ち続け、それぞれの人が、それぞれの立場で、「勝つために何をなすべきか」という行動規範に沿って行動すること。その先に、チームが目指すゴールがある。
「心に響くサッカーをする。スタジアムに足を運んでくれた方たちに、『試合を見に来てよかった、ありがとう』と言ってもらえるような試合を展開する」と開幕戦への意気込みを話す前田監督だが、それを作り出すのは、スタジアムに集う全ての人たち。新生・福岡がスタートする記念すべき日に、全員の想いをピッチにぶつけたい。
以上
2012.03.03 Reported by 中倉一志
