12月29日(木) 第91回天皇杯 準決勝
F東京 1 - 0 C大阪 (13:05/長居/11,982人)
得点者:77' 谷澤達也(F東京)
★第91回天皇杯特集
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ちょうど1年前の12月29日、天皇杯準決勝。F東京は国立競技場で、鹿島に先制しながらも追いつかれ、延長で逆転されて涙を飲んだ。石川直宏は試合後、眉間にしわを寄せて「このチームは、ヌルイ」と、厳しい言葉で2010年のシーズンを締めくくった。
そして、2011年12月29日。F東京は、C大阪に先制すると、1点を守りきってクラブ史上初となる決勝進出を決めた。この1年で身につけた力。強くなるということが垣間見えた勝利だった。
F東京は、ゲーム開始から主導権を握ってC大阪ゴールへと迫った。しかし、相手GKの攻守に阻まれ、先制ゴールは遠く感じられた。前半はそのまま、ヤキモキする時間が続き、スコアレスのままゲームを折り返した。
後半に入ると、時間の経過とともに、F東京の運動量が落ち始めた。徐々に息切れが始まる時間を迎えつつあった。それにあわせて、C大阪のパスワークが目立ち始める。F東京のベンチ前も、慌しくコーチングスタッフが動き出していた。
その中で、待望の先制点は生まれた。77分、ピッチ中央をパスで切り裂き、MF谷澤達也がミドルシュートを放つ。バーを直撃したボールはそのままの勢いでゴールの中へと跳ねた。時間帯こそ違うが、先制点を奪うところまでは、鹿島戦と同じ展開だった。ただ、結末は違っていた。C大阪はギアを入れ替えてリスクを冒して攻撃の色を強めてくる。それでも相手の勢いに飲まれることなく、ピッチの中の選手たちは冷静に対応した。
試合前、今野泰幸は「自分たちのサッカーがしたい。ただ、耐える時間は必ずある」と話していた。徳永悠平は「どんな形でもいい。トーナメントは内容よりも結果が求められる」と言い切っていた。ボールを奪うと、極力パスを繋ぐ。ボールを保持して自分たちの時間を長引かせた。試合終了間際は、自陣に人数を割いて泥臭く守りきった。シュートに体を投げ出し、こぼれ球では体をぶつけて激しく戦った。鮮やかなゴールとは対照的に、不細工な戦い方で勝利を引き寄せた。
F東京が大阪・長居でC大阪を破った、数時間後、東京・国立では京都が横浜FMに競り勝ち決勝進出を決めた。決勝は、史上初のJ2クラブ同士の対戦となった。この結果に、指揮官は驚かなかった。大熊清監督は、今季のJ2リーグを振り返る中で同じ言葉を繰り返してきた。
「今のJ2は、どのチームも監督が情熱をもって、さまざまな工夫をしている。選手それぞれが、与えられた環境の中でも頑張っている。そうした中でもまれてきたからこそ、この力がついたと思うんだよね」
今季のF東京は、J2リーグを23勝8分7敗の首位で終えた。毎回、厳しいゲームを乗り越えてきた。大熊監督は「開幕前から圧倒なんて言葉が一人歩きしたけど、そんな甘いもんじゃないよ」と言った。リーグ序盤は、選手たちも「正直、このまま下位に沈むんじゃないかと思った」(今野)時さえあった。それほどタフなリーグを戦い、J2王者とJ1昇格の切符を勝ち取ったのだ。来季J1昇格を決めたクラブだけでなく、J2には個性的なサッカーに取り組んでいるチームが多い。F東京は、彼らとの対戦の中で最も一番大切なことを学んでいる。それが、勝利への欲求だったはずだ。J2リーグ戦で、F東京との試合後に対戦相手の選手が足をつる場面が何度もあった。派手なゴールだけでなく、必死に体を投げ出し、ゴールを守る姿は、多くのJ2のスタジアムで観客を沸かせた。それを目の当たりにしてきた。
C大阪との準決勝では、大熊監督の厳しい練習に耐えてきた選手たちの数人が足をつってピッチに腰を落とした。それが素晴らしいことかというと、決してそうではない。そうならずに、しっかりと自分たちの時間を増やして相手を動かすサッカーが出来ればもっと楽に勝てたかもしれない。だが、勝ちたいと強く思うこと。その意思の強さが体を動かし、C大阪の攻撃を凌ぎきらせた。「ヌルイ」と吐き捨てた石川は1年後、チームが「たくましく強くなった」と言い換えた。勝ちたいと必死な相手から勝点をもぎ取るには自分たちも同等か、それ以上の思いがなければいけない。それが、知らず知らずのうちにJ2リーグで学んだことだったのかもしれない。
決勝へと勝ち名乗りを上げたF東京と京都。J2同士の対戦だと思って、チケットを手放す人がいたら、きっとテレビの前で後悔するはずだ。魅力的なパスワークを備えたこのカードにはそれだけの期待感が漂う。「もう幾つ寝ると」と、指折り数えたくなる2日間。元日は、“ホーム”東京・国立で初笑い。これで決まりだ。
以上
2011.12.30 Reported by 馬場康平
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