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【第91回天皇杯 4回戦 川崎F vs 湘南】レポート:足元をすくわれた川崎F。湘南が泥臭さで勝利を手にする。(11.12.18)

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12月17日(土) 第91回天皇杯 4回戦
川崎F 0 - 1 湘南 (17:01/等々力/8,291人)
得点者:63' 高山 薫(湘南)
★第91回天皇杯特集
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前半から湘南は泥臭かった。川崎Fの選手が保持するボールを追いかけ回し、ボールを奪い合う1対1の局面では激しく体をぶつけた。試合開始から数十秒後に柴崎晃誠が頭で浮き球をコントロールしようとした場面があった。このボールに対し、ハン・グギョンが足で激しくアタックしてファールを取られる。悪気はないのだが、激しさは伝わる。試合開始直後に発生したこのプレーが、湘南の選手たちがこの試合に向けていたモチベーションの高さを象徴していた。

反町康治監督は試合後の会見で「後半に1点を取られて延長になっていたら、5−1くらいでやられた試合だったと思う」と述べ、その理由として「というのは足がつっていてね、交代枠を使い切っていて、10人とか9人になるのかなというのがあったんです。ですのでプラス30分というのはぼくの中で頭に描けないくらい、90分で走り切ろうという姿勢でした」と振り返っている。地の利のないアウェイの等々力で、個々の技術力の差を埋めるべく湘南はただひたすらに走り続けたのである。

そんな湘南の戦いぶりについて川崎Fの選手たちは「相手は後半に落ちるだろう」という話を試合中にしていたのだという。そしてその考えは反町監督自身が認めるものだった。にも関わらず、試合はその後半に大方の予想を裏切る形で動き出す。

後半63分。CKからの流れの中で、湘南がチャンスを手にする。右サイドでボールを受けた坂本紘司が縦に勝負してクロスを入れ、これを高山薫が頭で決める。先制点は湘南が手にする。反町監督はこの高山について、契約の満了に伴い今季限りチームを去る臼井幸平と共に会見の場で最大限の賛辞を送っている。

「サイドの臼井と高山が18km位走ったんじゃないかというくらいアップダウンを繰り返していたので、明日にでもマッサージしてあげようかと思います」

実際、チャンスだと感じ、全力疾走でオーバーラップした臼井が、ターンオーバー直後に同じく全力疾走して自陣に戻る場面は称賛に値するものだった。高山も主に守備面でチームに貢献。自らの消耗を顧みることもなくピッチ上を動きまわった。

往々にして、退場者を出したチームは逃げ切りを成功させるものである。それは守備意識を徹底させやすい状況が生まれるからで、この日の湘南がまさにそうした状況になっていた。すなわち、前半からペース配分などを無視したかのようなプレスを仕掛けており、選手たちの足に限界が近づいていたのである。だからこそ、引いて守るという戦いを徹底できたのである。

個々の技量での劣勢を受け入れていた湘南に対し、川崎Fは試合を優位に進めていく。細かいパスワークで湘南陣内に攻め込み、バイタルエリアへとボールを運んだ。しかし、そこでノッキングを起こしてしまう。

「回せているような形ではありましたが、最後打てていなかった。攻撃のバリエーションもなかった」と肩を落とすのは小宮山尊信。攻撃のバリエーションの無さというキーワードに関しては、柴崎晃誠が「バイタルの中でのアイディアがなかった」と述べる言葉も同系統のものであろう。

攻撃のアイディアがない中、川崎Fは無理矢理に湘南の守備陣が守りを固めるエリアに仕掛けていく。そんな攻撃に対し、田坂祐介は「相手のいるところに突っ込んでいっただけ、とういうのもあった」と反省する。そしてその一方で「どこか綺麗に崩そうとしていた。崩し切ろうとするところも多かった。もっと泥臭くやっても良かったのかなと思う」と悔しさをにじませた。

湘南が守備意識を高める事による何が起きたのか。相馬直樹監督はその現象をこう振り返っている。

「後半の頭、向こうが更に引いた部分があったと思うんですが、そういう中で押しこむ時間が増えて、ただそうなればなるほど相手がバイタルを空けてくれなくなったので、サイドからしか攻め手がなくなった」

しかし、そうした試合展開の中、相馬監督が打ったのが70分の、矢島卓郎に代えて楠神順平を投入するという交代采配だった。楠神も持ち味のドリブルを生かした攻撃を見せていたが、その一方で川崎Fから高さがなくなったのは事実。試合終盤に、チームメイトに促される形で菊地光将が前線に上がった場面などを見れば、川崎Fに必要なものが何なのかを選手たち自身が把握していた証拠となるであろう。

泥臭さと綺麗さと、対極にある価値観をそれぞれのチームが持ち、戦った。だから柴崎が「シュートを打てる時に打たないと、点が入らない。自分も含めてミドルシュートがなかった」と話す状況が生まれてしまうのである。綺麗に、攻め崩さなければシュートに行かないという状況が生まれたのであろう。

結局のところ、ポゼッションで湘南を圧倒し、いつでも点が取れるという試合展開に安心していたのかもしれない。そして、その安心感の中、ミドルシュートを相手DFに当る怖さや、枠外に飛ばしチャンスを潰したという事に対する責任感から逃げていたのかもしれない。サッカーをやっているようで、結局のところ戦えていなかったのである。

だからこそ、サッカーの神さまは泥臭く「戦い続けた」湘南に勝利をプレゼントしたのだろう。負けるべくして川崎F試合を落とし、技術の差を運動量と気持ちでカバーしようとした湘南に勝利が転がり込んだのである。試合を見たものの感想として、理不尽な結果である。しかし、表層的なイメージと、試合後の選手たちの言葉との落差の中に、この試合結果をもたらした真実の姿が見えていた。

ただ、下を向いてばかり居ても仕方無い。「決め切れないところは今年を象徴するような試合でした。支配しているとか言っても意味が無い。結果を出さないとダメ。大事な試合だったと思います」と話す田坂の言葉に希望を見出したいと思う。彼らは足りないところがわかっている。そしてそれを埋めるだけの意志の力を持っているはず。この試合を持って2011年の川崎Fの公式戦の全てが終了した。多くのものを失った失意のシーズンだった。ただ、マイナスから始まる物語を楽しむ余裕は持っていたい。来季の逆襲に期待したいと思う。

川崎Fを下した湘南は、サッカーの大事なものを見せてくれていたように思う。それを見せてくれた彼らを率直に賞賛したいと思う。そして、意志の力が技術の差を埋めた時、到達できる限界を見せて欲しいと思う。脱帽です。

以上



2011.12.18 Reported by 江藤高志
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