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すべてはこの日のためのシナリオだった。草津の選手たちからは、シーズンが終盤へと近づくにつれて、こんな声が聞こえ始めていた。「最終戦で栃木を倒して、栃木よりも上へ行く」。いまとなっては昇格争いに加わっていたかどうかも曖昧になるほど急降下していった栃木が、最後まで草津より上の順位でいてくれるかが心配だったが、よくぞ耐えてくれた。もし最終戦を待たずに順位が入れ替わっていたら楽しみが１つ減るところだった。栃木との勝点差は、まさにここで逆転してくださいと言わんばかりの２。草津が想定したシナリオどおりに敷島へと出掛けてきてくれる栃木に感謝しながら、草津は最終戦を戦う。
草津の勢いが、止まらない。前節・敵地の愛媛戦では、杉本裕之がプロ初ゴールを決めて破竹の３連勝。草津は10月16日の千葉戦で劇的な逆転勝利を挙げてから５勝４分と無敗。９試合連続負けなしのクラブ新記録を打ち立てた。シーズンがあと１試合で終わってしまうのは寂しいかぎりだが、最終戦で無敗記録を10へ、連勝を４へと伸ばして１年間を締めくくる。草津は最終戦の勝利で９位以上が確実、さらに他チームの結果によっては最高６位まで浮上が可能となる。副島博志監督は「他力ではあるが６位のチャンスがある。栃木戦では選手たちが意地をみせてくれるはずだ」と選手へ信頼を寄せる。
栃木からの勝利は必須だ。草津は、敵地開催となった今季の開幕戦で栃木に２対１で敗れている。失意の中で帰途についたあの日を、選手、サポーターは思い出さなければならない。また、今季の北関東ダービーでは３戦１分２敗で、最下位がすでに確定している。開幕戦、ダービーの雪辱をまとめて果たすのは、ここしかない。北関東ダービーでは栃木が優勝を決めているためトロフィーは試合後に栃木側へ手渡されることになるが、すんなりとは渡さない。栃木には、草津の勝利に沸くスタジアムの陰で静かにトロフィー受け取ってもらう。敷島で、トロフィーを掲げさせるわけにはいかないのだ。
栃木との戦い、それは２トップとの戦いだ。リカルド・ロボ、崔根植、サビアの外国人FW陣のだれが先発で出てくるかはわからないが、だれが出てきてもゴールへのパワーを持つだけに最大限の警戒が求められる。J１クラブへの移籍が報道されているロボは、気持ちが来季へと向いている可能性があるため、出場してくれれば草津としてはありがたい。もしロボが先発のピッチに立てば、リベンジに燃える草津守備陣の標的になることは間違いない。ロボさえ止めれば草津の勝利は近づいてくる。
草津・副島監督がポイントに挙げているのは右サイドでの攻防だ。草津の右サイドでは今季ブレイクを果たした破壊的サイドバック古林将太が戦（いくさ）に備える。プロレスラー並みのフィジカルで90分間に渡りアップダウンを繰り返すスタイルは、草津サッカーの象徴でもある。古林は「最後の試合になるが最後の１秒まで仕掛けていって自分のプレーをみせたい」と完全燃焼を誓う。そして今季限りで契約満了となる親友MF山田晃平へメッセージを送る。「晃平くんはどうせ最終戦後に泣いちゃうだろうから勝利の涙にしたい。俺らはピッチ外では最高のコンビネーションをみせられたが、ピッチではお互いが前へ出て行ってしまって良いプレーが見せられなかった。最後は最高の連係をみせて締めくくりたい」（古林）。今ゲームは、草津サポーターから愛された「晃平＆将太」のラストダンスでもある。
そして最終戦も草津をけん引するのは、やはり松下裕樹、熊林親吾の両MFだ。２人はともに出場停止１試合を除く36試合に先発出場、最終栃木戦が37試合目の出場となる。松下は主将としてチームを支えつつ中盤の底で闘志あふれるプレーをみせた。熊林は、絶対的司令塔としてゲームを組み立て、J２アシストランクのトップを快走する。チームを愛するハートと責任感を備える２人は草津の財産でもある。松下が「最終戦は今季の集大成をみせる最高の舞台。気持ちが昂ぶっている」と話せば、熊林は「試合結果によっては最高６位まで行けるので、来季のプレーオフへの絶好のシミュレーションだ。自分が在籍する４年間で一番大事なゲームだと思っている」と最終戦のピッチへ向かう。栃木との決戦、今季の最終戦、契約満了選手との別れ…様々な思いが交錯する最終戦のシナリオのエンディングを飾るのは、草津の勝利だ。
以上
2011.12.01 Reported by 伊藤寿学
