10月19日（水） 2011 J2リーグ戦 第6節
熊本 0 - 1 栃木　（19:04／熊本／3,189人）
得点者：9' 水沼宏太（栃木）
スカパー！再放送 Ch185 10/20（木）後04:00〜
☆totoリーグ第４ターン開催中！
----------
この試合に臨むにあたって、大迫希や武富孝介ら熊本の選手の口から聞かれたのは「決めるところでしっかり決める」という言葉だった。結果を振り返ればまさしくその通りで、栃木の先制点そして決勝点となった９分の水沼宏太のゴールは、決めるべきところでしっかり決めたもの（この試合、記録によれば水沼のシュートはこの１本だけ）。ただ、このゲームに関しては、それ以上の歴然とした差が勝敗を分けた。それはすなわち、執念、思いの強さ、深さだ。

「エアポケットみたいなところをうまく衝いた」と栃木の松田浩監督は表現しているが、熊本としては簡単にやらせすぎたと言うしかない。攻撃時のリスタートから、ボールをキャッチしたGK武田博行のフィードをつながれ、あれよあれよという間にシュートまで持ち込まれている。アクシデント的な失点というのは確かにあるものだが、これは事故ではないだろう。ハーフタイムの高木琢也監督の指示にもある通り、またこれまでのトレーニングでもしつこく言われてきていた通り、攻めている時のリスクマネジメント、あるいはカウンターへの適切な対応ができていれば、与えずに済んだ失点だ。

プレビューでは、スコアが動いても落ち着いてここまで積み上げてきたサッカーができれば、という観点を述べたが、スコアが動いて本来の形を思い出したのは栃木の方。８試合も勝っていないという状況の中、「諦めてないという気持ちを見せなきゃいけなかった」（水沼）栃木は、玉際での闘争心で熊本を凌駕する。バランスの良いポジショニングからセカンドボールを拾っては、「サイドバックが起点になる位置」（河原和寿）へと展開し、サイドチェンジで広げたところ、あるいはリカルド ロボらトップが落ちてDFを引っ張ったところへ水沼や河原、そして高木和正が入り込む形で熊本のギャップを狙い続けた。

一方の熊本は、早々に失点してしまった事で点を取りに行かざるを得なくなる。23分には南雄太のキックを長沢駿が頭でつないで持ち込んだファビオの右足、27分には武富のキープから片山奨典の左足、そして29分にも武富が自らのリフレクションに反応してシュートと、立て続けに栃木ゴールを狙う。いずれも冒頭で触れた「決めるべきところ」で、これが決まっていれば流れは確かに変わっていただろう。しかしチームとしての攻撃という面では、「もっと相手の守備ゾーンをずらす工夫が足りなかった」と高木監督も振り返っているように、いい形で迎えた場面は単発だった。

後半に入って、前線で起点になれていなかった長沢を下げて60分にソン イニョンを投入した熊本は、前半より高い位置でポイントができるようにはなった。それでも、リードした事による精神的な余裕も生まれて本来の整備された状態を取り戻した栃木の守備を崩すには至らず。セカンドボールの争いでは前半より改善をみたが、決定的な場面は64分のファビオのヘディングなど数えるほどで、アディショナルタイムの片山のフリーキックもGK武田に阻まれて試合終了を迎えた。

勝った栃木は順位こそ変わらないが、少なくとも自信を取り戻す事にはつながったはず。「気を抜くと一瞬でこの流れも消えてしまう」（水沼）以上、残り８試合も勝ち続ける事で状況を変えたい。

熊本はこれで12位に後退。３位札幌との差は詰まらず、昇格は現実的に非常に厳しい状況となった。気になるのは、攻撃でも守備でも、争点でプレーしている味方に対してのサポートや判断が非常に遅かったこと。さらに試合後に武富も口にしていたが、タイミングが合わない、あるいは状況が悪い時などに、声を出して少しでも状況を良くしようとする姿が見られなかった。地元で初めての公式戦を勝利で飾り、「勝ち方を忘れているところもあったので、こうやって勝つんだという方向付けはできたかなと思う」と話した栃木の落合正幸のように、経験豊富で戦う姿勢を全面に出せる、戦う執念をもった選手が、熊本にもいないわけではない。

中３日で迎える水戸戦も正念場。順位云々の前に、スタジアムで、あるいは画面を通して、声を出しチームの勝利を祈るサポーターに、見せなければいけないものがある。

以上

2011.10.20 Reported by 井芹貴志