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緩やかに、しかし確実に風向きは変わった。向かい風を追い風に変えたのは、もちろん勝利だ。栃木は公式戦８試合ぶりの勝利を、天皇杯２回戦でホンダロック（ＪＦＬ）から手に入れた。前半に先制し、同点にされても引き離し、複数得点を挙げて勝ち切った。ホンダロック戦の前にリーグ戦で東京Ｖから得た勝点１を、しっかり勝利に繋げられた。事態は好転しているが、残り１０試合で３位・鳥栖との勝点差７を引っ繰り返す状況は依然として厳しい。しかし、諦めるわけにはいかない。逆転昇格を信じ、可能性がある限り、全力を尽くして戦い抜くしかない。今節の湘南戦からひとつも負けが許されない、Ｊ１昇格へ向けた“過酷なトーナメント”が幕を開ける。
ファイティングポーズを取り続けるのはいいが、ガードを固めてばかりいても勝機はたぐれない。勝点３を奪うには、ゴールが必要だ。だが、得点源である肝心のリカルド ロボが不振から抜け出せていない。そこで、得点力をアップさせるために、松田浩監督はひとつの決断を下した。
「守備のところで、これまでの判断基準よりもアグレッシブに行く」
ボールを失った際、今までよりも高い位置からプレスをかける意識を、今週のトレーニングでは全体に浸透させた。リトリートして守備ブロックを組んでいた時よりもリスクは負うが、上手くハマればゴールチャンスも増える。もちろん、リスク管理も怠らない。「リスクを伴うので、センターバック２枚と逆サイドのサイドバックはより注意が必要になる」と松田監督。「的確な状況判断をして、取りに行くべきところでは取りに行きたい」と話すセンターバックの渡部博文は、「後ろからの指示が大事になる」と付け加えた。前から取る意識を強く持ちつつ、バランス感覚を失わずに戦うためには、後方からのコーチングが求められる。局面を見極める正確な判断力と、機を見て前に出る勇気を持ち、ゴールを奪う確率を上げていきたい。
「ロボがゴールを取れないことで流れが止まっているのは明らか。攻撃陣がゴールを取れればいいけど、ロボが焦るとチームが戸惑う。エースが取ってくれることを皆が望んでいるので、いいパスを供給したい」
ゴールから遠ざかっているロボのサポート役に名乗りを上げたのは水沼宏太。エースのゴールほどチームを勢い付けるものはない。プレスをかける位置の変更も、ロボに与えるチャンスの数を増やす意図が含まれているはずだ。パウリーニョを失ったショックから立ち直り、キャプテンマークを松田監督とチームメイトから託されたロボ。湘南戦には「いいイメージを持っている」と言うように、前回の対戦では７試合ぶりにゴールを決め、その後に大爆発してJ's GOALの６月度月間ＭＩＰに輝いている。復活の狼煙をあげるには、湘南はかっこうの相手だ。事態を大幅に打開できる、エースの一撃に期待したい。
栃木のキーマンがロボなら、湘南はチーム得点王の高山薫。「サイドで受けて、いい状態から仕掛けたいタイプ」と後輩の特長を語るのは、専修大学の先輩である渡部。０‐１で敗れた鳥取戦でも切れ味鋭い動きで、ショートカウンターの仕上げ役を担っていた。ボランチラインで引っかけ、素早くアジエルに預けて高山に繋ぐパターンから、ゴールを取り切りたい。ここ数試合、失点を喫し尻に火が付いてから湘南は反撃に打って出ているが、それでは０‐２で完敗した前回の二の舞になる。試合開始１５分までの失点数８はリーグワースト２位だけに、序盤の試合運びには細心の注意を払いたい。１年でのＪ１復帰に黄色信号が灯っている湘南は、敗れればいよいよ赤信号に変わる瀬戸際。栃木同様、負けられない一戦となる。
「ソリさん（反町康治監督）の中には駄目なイメージの俺しかいない。そのイメージを覆してやりたいという思いが強い」
湘南戦に並々ならぬ闘志を燃やすのは、新潟でのプロ１年目に反町監督に鍛え抜かれた河原和寿。一昨年、恩師の目の前でシュートを叩き込んだが、１‐１のドローに終わったことで喜び半分だった。湘南が崖っぷちに立たされていることを伝えると、「ソリさんの苦しむ顔が見たい」と、さらに気合が入った河原。プロとしての心構えを徹底的に叩き込まれた恩師に、結果で報いることができるのか。ロボと共に栃木の逆転昇格へ向けた反撃に不可欠な河原にとって、湘南戦は真価が問われる重要な試合になる。
以上
2011.10.14 Reported by 大塚秀毅
