10月1日(土)J1 第28節 広島 vs 神戸(13:30KICK OFF/広島ビ)
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2009年、広島に移籍してから約1年もの間、リーグ戦では1点もとれない状況が続いた。先発のチャンスが与えられた天皇杯でもいい内容のプレーができず、準決勝進出をかけたヤマザキナビスコカップG大阪戦では、メンバーから外された。
「もう、俺のサッカー人生は終わった」
そんな絶望感に打ちひしがれた李忠成に、佐藤寿人・山崎雅人(現山形)の負傷によって思いがけない先発のチャンスが巡ってきたのが、昨年9月18日の対神戸戦。広島ビッグアーチのピッチに立った背番号9は、祈った。天に、そして自分に。
俺に、点をとらせてください。
76分、その祈りが通じた。高萩洋次郎の左クロスに槙野智章(現ケルン)がヘッド。頭に当たったボールがこぼれ、李の前に転がった。足ではなく、頭から飛び込む。顔をピッチに打ち付けんばかりの勢いで。
神戸戦でのこの執念が、李忠成の人生を変えた。以降、12試合で11得点を記録したことで日本代表にも招集され、アジアカップ決勝で優勝を決めるゴールも叩き込んだ。そして今季もここまで13得点と得点ランク3位。トップのケネディ(名古屋)との差は2点と、十分に得点王が狙える位置に来ている。ここまでのブレイクを見せることを予測した人物は、李忠成本人も含めて、存在しない。
ただ、彼にとってこの試合での唯一の悔いは、この試合で勝利できなかったこと。「勝ちたいですね、絶対。特に、前節の福岡戦、自分たちで自滅した形になってしまったので。(屈辱から)反発しないといけないし、リーグ戦残り7試合、頑張らないといけない」と瞳をぎらつかせる。
そんな李忠成にとって、心強いデータがある。それは、ホーム・広島ビッグアーチでの相性の良さだ。昨年の神戸戦以降、19試合で16得点。今季も12試合中9得点を記録している。しかも「マルチゴール(2点)が多いでしょ」と言う李の言葉どおり、マルチゴールは通算4度で、うち3度を今季達成している(ちなみにマルチゴールは、アウェイでは記録していない)。
もちろん、こういう「データ」や「相性」に科学的かつ論理的な根拠はほとんどないのかもしれない。しかし、勝負の世界には、例えば去年までアウトソーシング日本平における広島が15年間も勝利がなかったことのように、説明し難い不思議な巡り合わせというものがある。そして重要なのは、この相性の良さを李忠成自身がよくわかっていること。「1試合1点に近いペースで点をとっているはずですよね」とビッグアーチでの試合に自信を見せている。それはまず、メンタル的な部分で大きなアドバンテージだ。
今季、アウェイでの神戸戦で李は出場停止。その影響もあったのか、広島はチャンスをつくるものの得点できず、0−1で敗れている。「神戸は激しく戦ってくるチーム。難しい闘いになる」と高萩が言うように、たとえロースコアであっても厳しい球際の闘いがピッチのいたるところで頻発するのが、広島対神戸戦の常だ。「前線にはポポ・大久保嘉人・朴康造らスピードのある選手が多い。スペースを与えてはならない」とペトロヴィッチ監督も警戒する。実際、ここ最近の神戸は5試合で1勝1分3敗と結果を出せていないが、その前の4連勝を含め、点をとる時は1点ではおさまらない爆発力を持っている。ベテラン吉田孝行も今季7得点と好調をキープし、ポルトガル・ドイツでプレーしていた相馬崇人も前節は先発。個々の能力が高い選手がそろっている。
ただ、広島も負けるわけにはいかない。前節、最下位の福岡に完敗、ACL出場圏内到達が本当に厳しくなった。特に前半は「今季最悪」と指揮官が認めるほどの不出来で、試合後に李が「何を怖れていたのか、わからない」と嘆くほど。「こんな試合を続けていては、サポーターが離れてしまう」と森崎浩司は危機感を強め、高萩は「もっと厳しさが必要。それは自分自身に対しても、チームメイトに対しても。もちろん、相手と戦う時も」と言葉を強めた。
順位どうこうではない。広島が広島であることのプライドをかけ、自分たちの力を誇示する。そうすることで、C大阪戦や福岡戦で失った誇りを取り戻す。プロにとってそれは、何よりも大切なものだから。
その先頭に、李忠成は立つ。思い出深い神戸との対戦、得意とする広島ビッグアーチ。舞台装置は整った。あとは、歓喜を待つだけだ。
以上
2011.09.30 Reported by 中野和也
J’s GOALニュース
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