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【J1:第3節 甲府 vs 清水】レポート:清水の倍のシュートを打つも敗れた甲府。悔しい負けだが、甲府のサッカーに熱と希望が加わった。(11.07.10)

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7月9日(土) 2011 J1リーグ戦 第3節
甲府 1 - 2 清水 (18:33/中銀スタ/12,114人)
得点者:29' 小野伸二(清水)、42' パウリーニョ(甲府)、45'+1 大前元紀(清水)
スカパー!再放送 Ch183 7/10(日)後00:30〜
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「最後まで観たい」と思った人が多かったから、道路が渋滞して山梨中銀スタジアム周辺の駐車場から出るのに掛かる時間と苦痛を天秤にかけても帰らなかった人がほとんどだった。負けて、「悔しくてたまらない」という感情が湧いてきたことを後になって冷静に振り返ると「嬉しい」とも思った。名古屋や鹿島に勝っても「感情を刺激する勝利」だったのが、前節の新潟戦から「心を大きく揺らす勝敗」になってきたように感じる。清水からも「感動の勝利」を手に入れることが出来ればよかったが、よそ様にはどう見えようとも甲府のサッカーが「心を大きく揺らす」方向に傾いてきたことで、なんとなく煮え切らなかった山梨がイチガンに向かって進めそうになってきた。残留争いの真っ只中にいることには変わりないが、清水戦のような戦いが出来れば熱が冷めたり、希望を見失ったりすることはない。

新潟戦では甲府最初のJ1挑戦を支えた山本英臣や石原克哉がチームに熱をもたらせたが、清水戦は雄ライオンみたいに髪を伸ばしている片桐淳至が、誰が発明したのかは知らないが「獅子奮迅」という言葉を、常套句であったとしても躊躇なく使いたくなるプレーで熱をもたらせた。
「今日の試合は『J1』って感じが凄くした。名古屋にいた頃は清水とはサテライトリーグやトレーニングマッチでしか戦ったイメージがなかったから、公式戦で清水と戦うとモチベーション上がる。結果を出したいと思った」

前半のキックオフから交互に決定機がくる展開になったが、隣に座っていた清水担当の記者はしばらくすると「今日の清水はミスが多過ぎる」とキーボードではなく、最近の人類にしては珍しく口で呟いた。それを聞いて(しめしめ)と心の中で思っていた。確かに、中2日の甲府に対して一週間の時間があってネジをギリギリと巻いてきているはずの清水は覚悟したほどではなかった。ただ、ボールが小野伸二を経由する度に飲み過ぎた翌日のように胃がキリッと痛んだ。リズムチェンジャーの小野・精確・伸二はワンタッチでボールの方向を変えるし、周りの選手も彼には上手く反応するから、脳みその奥にある「嫌な予感中枢」が蠢く。この嫌な予感というものは当たるもので、立ち上がりは良かったものの中2日で疲れが残っている筋肉が疲労して神経の命令に応えられなくなり始めた30分前後は、通るはずのパスがズレる場面が目立った。守備ではペナルティエリア付近でボール保持者にプレッシャーを掛けていないシーンが出てしまう。最初は大前元紀で、次は小野。小野も勘弁してくれるかと思ったら、ペナルティアリア右外からファーサイドにいきなりシュート。記者席でもGK・荻晃太と一緒に反応するが力及ばずボールはネットを揺らし、小野は人差し指を伸ばした右腕で空を突き刺す。これをベンチで見ていた片桐は「小野さんのシュートは世界レベルだね。今まではあそこでシュートフェイントを入れてからパスを出していたけれど、『ココ』って自分で感じれば打って入れちゃう。凄いと思った」と高校サッカー界の先輩スターにビンビンと感じまくり。そのスターは短いコメントしか残さないが「気持ちよくシュートを打てた。入る予感がしていた」とサラリ。柏戦でも田中順也に同じような場所から決められたけれど、甲府もあの辺りからシュート練習したほうがいいかもしれない。

ただ、連敗中と違ったのは「1点なら何とかなる」と思える内容と、そう期待出来る信頼があった。リードした清水とリードされた甲府という関係が出来上がると、その後は甲府タイム。試合後の記者会見でアフシンゴトビ監督の通訳は「甲府は降格争いをしているということもあり〜」と訳していたけれど、正しくは「残留争い」。先制されればやり返すという自信を取り戻した残留争い中の甲府は、主導権を持って攻め続けたが決められず、攻め疲れを心配し始めた。ら、清水がバックパスのミスをサプライズでプレゼントしてくれた。それをパウリーニョが落ち着いてGK・碓井健平とCB・岩下敬輔をかわして決めて、同点。ツイッターをやる気がないから、清水担当の記者に聞こえるように「(前半終了間際の)いい時間帯に同点に追いつけた」と口で呟いた。ら、前半のアディショナルタイムに、これまで岩下の厳しいパスに苦戦して元気がなかった辻尾真二が右サイドから入れたクロスが左サイドにこぼれ、大前が精確にミートしたシュートを決めて、本当のいい時間帯にゴールを決めてしまう。

後半から片桐を投入した甲府は立ち上がりこそ清水にチャンスを作られたが、ほとんどの時間は主導権を持って次の1点を取りに行った。しかし、シュートはことごとくGK・碓井に止められ、ボールはゴールの中に行きたいのに行けない生殺し。片桐がドリブルで突っ掛けて熱くしてくれるが、最後の最後は守られてしまった。「気持ちが入っている分、決定機を外したときは、何でもっと遊び心が無かったのかと後悔した。あそこであと1つ深呼吸できる余裕を持てたら(ハーフナー)マイクも見えただろうし、出てくるGKを外して周りの選手を使えたと思う」と片桐は55分のチャンスに決められなかったことを悔やんだ。阿部吉朗、柏好文も決定機に決められなかった。碓井も素晴らしく良かったが、彼自身が「(柏の)ヘッドは正面に来て運もあった」というように実力と運のセーブでチームを助けた。

試合後、ジョージクルーニーにちょっと似ているアフシンゴトビ監督はアルパチーノのような少しかすれた声で「Good Play!」と片桐に声を掛けたそうだが、「上手く祈りましたね」ではないはずなので、清水から見ても片桐は素晴らしかったんだと思う。小野の素晴らしさに刺激を受けた片桐はこれからもっと良くなるはず。また、甲府はマイクがシュートゼロでも清水の倍のシュートを打てるようになった。大前のシュートに繋がった場面に関しては44分だったのでマイクにはもう少し粘り強く守備をして欲しいが、マイクがいるから周囲が生きるという形になったことは進歩。希望と期待は繋がっている。

次(7/16)はホームでG大阪戦。伊東輝悦のJ1・500試合出場となる大記念試合。「輝さんの500試合に花添えたいね。ホームで連続で戦えるからG大阪を倒したい」と片桐が話したが、その気持ちはみんな同じ。Jリーグの偉い人も来るだろうから山梨中銀スタジアムを満員にしてG大阪に挑んで勝とう。宇佐美貴史がいないのが残念…ニヤり。

■この試合のHOT BALLER:片桐淳至(甲府)

以上

2011.07.10 Reported by 松尾潤
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