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シーズンを通してベストメンバーで闘える時など、ほとんどないと覚悟しておいた方がいい。ケガや病気もあるし、出場停止も、そして不調もある。監督が「このメンバーで闘いたい」と思っても、それがままならないのがリーグ戦であり、サッカーであり、人生でもある。
ただ広島は、少しずつ「ベスト」に近い陣容となってきた。そのキーマンは、何と言っても「広島のエンジン」と称される青山敏弘である。90分間、衰えを知らない運動量。球際の強さと積極性。一発で局面を変える精度を誇るパワフルな右足。ギラギラした瞳とストイックな雰囲気を持つことも含め、他に替わりがいない広島のサムライが、いよいよ先発に戻ってきそうな気配だ。
クラブ史上最強といっていい年がいつなのか、それは議論が巻き起こる部分だろう。ただ、21世紀以降と限定すれば、間違いなく2008年シーズンだ。当時はＪ２だった広島だが、天皇杯でＪ１勢を圧倒。Ｊ１で２位に入った川崎Fに完勝し、柏にはフランサの「魔法」で敗れたものの、13対25というシュート数と「普通に負けそうだった」という山根巌のコメントでもわかるように、内容では広島。もちろん、Ｊ２では無人の野を行く状況だったことも、歴史が物語っている。
その「最強広島」を支えていたのが、青山敏弘と森崎和幸のダブルボランチだ。猛然とボールホルダーにアタックをかける青山と、その後ろで絶妙なバランスをとる森崎和。共に質は高いが、まったくタイプが違う二人の絶妙なコンビが機能していたから、広島の美しいポゼッションサッカーが成立していたのだ。
Ｊ１復帰後、森崎和は病気、青山はケガでシーズンをフルで過ごせない。共にピッチに立ってもコンディションが互いに整わず、Ｊ２時代に見せた圧巻のコンビを見せられなかった。今季、いよいよそのコンビが見られるかと思ったが、森崎和は最終ラインに入り、青山は甲府戦で膝を負傷。やはり二人のコンビが成立することはなかった。
だがこれまでと違うのが、森崎和幸の状態がサッカー人生でも最高の状態にあること。さらに弟・浩司の調子もまた最高の状況にある。青山もここまで途中出場を繰り返して試合勘を取り戻しており、２００８年以来となる好調な３人のトライアングルが見られそうだ。当時の青山と森崎和が底辺となる三角形から、リベロの森崎和を頂点とする逆三角形と形は少し変わるだろうが、この３人の関係がうまくいき始めると広島のサッカーはまたテイストが変わってくれる。
一方のＣ大阪は、苦しい布陣で広島戦を迎えることとなりそうだ。今季、１トップでチームの攻撃を引っ張ってきたホドリゴ・ピンパォンが出場停止。さらに中盤の核であるマルチネスがケガで今節の出場が難しそうだ。替わりに先発が予想される小松塁やキム・ボギョンももちろん能力が高い選手ではあるが、主力の不在が痛くないわけはない。実際、ホドリゴ・ピンパォン不在だった横浜ＦＭ戦は今季２度目の完封負け。マルチネス不在の新潟戦も１−１で引き分けている。
ただ、ペトロヴィッチ監督は「Ｃ大阪は美しいサッカーをみせるチーム。個人能力も高い選手がそろっているし、危険だ」と警戒心を強める。２００８年のＪ２ではＣ大阪に全勝した広島だが、昨年はホームで０−５と完敗。アウェイでも１−１と引き分けている。相性の良さは、完全に過去のこととなった。
この両チームは共にサイドに攻撃的な選手を抱えている（広島はミキッチ・山岸、Ｃ大阪は高橋・丸橋）。ただ、そのサイドを活かすのは、中盤での支配率にかかっている。そのキーマンが広島では復活してきた青山、Ｃ大阪ではマルチネスの代役として起用されそうなキム・ボギョン。二人の中盤でのバトルの正否が、試合の流れを決めることとなりそうだ。
広島は勝てば、首位と勝点で並ぶ可能性がある。Ｃ大阪も今季初の連勝がかかる。両チームにとって極めて重要な明日の戦い、梅雨明けを迎えた夏の暑さよりも、熱い戦いとなるだろう。
■この試合注目のHOT BALLER：青山敏弘（広島）
以上
2011.07.09 Reported by 中野和也
