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熊本の歴史を語る上で、愛媛は欠かすことができないクラブだ。2005年の全国地域リーグ決勝大会で3位となった熊本は、愛媛のJ2入りを受けてJFLへ昇格することができた。そして2008年、JFLでの2シーズンを経てたどりついたJ2の舞台で、初めて公式戦を戦ったのも愛媛FCである（この試合は1−2で敗れた）。
以来、3シーズンで8度対戦し戦績は4勝2分2敗。過去の数字では先行しているものの、現在の順位を見れば、3試合勝ちがない9位の熊本に対して最近5試合で4勝1分の愛媛が3位と、その優位性はどこにもない。とは言え勝点差はわずか3。前節、終盤の得点で大分に追いつき勝点1を加えた熊本だが、特に上位陣が直接ぶつかり合う今節、何としても勝点3を手にして少しでも差を詰めたいところである。
しかしながら当然、迎える愛媛は簡単な相手ではない。バルバリッチ監督が就任して戦術面での深化が結果につながってきている印象で、「堅くて穴のない、良いチーム」と選手たちも口を揃える。失点は13と決して少なくないが、得点16はリーグ4番目。それぞれ4得点を挙げているジョジマールと齋藤学というタレントを前線に擁し、オーガナイズされた守備からの早い切り替えで攻撃につなげ、両サイドバックも高い位置をとって厚みを加えている。熊本も守備は強みのひとつだが、このところ失点が続いており、また前節の反省をもとに集中してケアしなくてはならない。
さらに焦点となるのは愛媛の前線からのプレッシャーをいかにいなすか。「無理につなぐとひっかけられて速攻を食らうので、つなぐ場面と裏を狙う場面を使い分けることが大事」と市村篤司が言えば、左の原田拓も「前から来れば後ろにスペースができる。そこを逃さず狙いたい」と話す。
守備で流れを掴んだ上で、勝つために得点が求められるのは言わずもがなだ。前節、古巣を相手に待望の今季ゴールを決めた松橋章太は言う。「相手の陣形が整う前に切り替えて、空いたスペースを見つけて飛び出すイメージ。なかなか崩れないと思うけど、チームとして意思統一してやり方をはっきりさせればチャンスは作れる」
ラインの裏を狙う姿勢を見せながら、下がればその前のスペースを、そしてアンカーの脇を狙い、絞ってくればサイドをと、縦横両方のベクトルで相手にギャップを作らせる動きを繰り出し続けること、また「相手がはめてくればどこかがあく。そこを意識して突いたり、入っていって自分が引き寄せたい」と根占真伍が話すように、2トップとトップ下の出入り、そのスペースへの両サイドの動き出しがポイントになりそうだ。いずれにしても、駆け引きの面でも愛媛に先じて主導権を握るべく、攻守両面においてチームとしてイメージやタイミングを共有しなくてはならない。
ただ、愛媛の現在の好調を支える要素として、後半の得点の多さ（16得点中12点、うち5点が残り15分の得点）に触れないわけにはいくまい。前節の鳥栖戦では土壇場で追いつかれながら直後にジョジマールのゴールで勝ち越し、前々節の鳥取戦もアディショナルタイムに前野貴徳が決めるなど後半に3点を奪って試合をひっくり返している。さらに遡れば栃木戦でも逆転勝ち、F東京、湘南といった昇格候補にも終盤に追いついて引き分けに持ち込んでおり、「負けてる試合を引き分けや勝ちに持っていく」（市村）勝負強さは、特にここ最近の熊本とは対照的だ。
そうした部分に危機感があったのだろう、熊本の選手たちは大分戦の後、エジミウソンの提案で選手たちだけで意見を出し合う時間を持った。「そんなつもりはなかったにしても、大分戦の映像を見れば、特に後半の入りは、相手の方が強い気持ちでゲームに入っていたように見えた。それが出てるってことは、自分たちがまだ甘いということ」と市村は言う。仮にそこで話されたことがゲームには直結しないとしても、闘う気持ちを再び奮い起こす作用はあったのではないか。
思えば昨シーズンも、福岡戦の大敗を境に再生した。昇格争いに再び名乗りを上げ、そこを戦い抜くには精神的なタフさも求められるが、それも一戦一戦の積み重ねがあってこそ。まずは目の前の相手を倒すことに注力する、その姿勢を完遂できれば、90分後に吹かれる笛は自ずと、歓喜の合図になるはずだ。
以上
2011.06.24 Reported by 井芹貴志
